Le Misanthorope

osamuharada2010-05-13

「Le Misanthorope」、ル・ミザントロープというフランス語に憧れたのは30代半ばだった。モリエールの喜劇のタイトルで、日本語訳は『人間嫌い』です。日本では江戸時代前期の17世紀、古いフランスの芝居ですね。 広辞苑の解説では、≪ 社交界の偽善を憎む青年アルセストが、過度の潔癖から ついに世を捨てる。フランス古典劇の傑作。≫とあります。
いま思うと、20代から始めたイラスト稼業という世俗的な商売が、ちょっとヤツガレには飽きてきた、そーゆーナマイキな年頃だったのでしょう。妙にこの「ミザントロープ」という言葉が気に入ってしまい、それで独り勝手気ままに、好きな絵を描くだけの場所をなんとか手に入れようと、島に来てアトリエを建てちゃったのですよ。島の中でも周囲にまったくひと気のない場所をわざわざ探してね。はじめは電話も引かず(携帯は今も入らないけど)、とりあえず仕事から逃げ出すことには成功した。 
それまでの広告や平凡出版(現マガジンハウス)などの仕事で、流行を追いかけるだけの、やたらに忙しいイラスト稼業に嫌気がさしていたのです。仕事を半年休んで『ぼくの美術帖』を書いたのもその頃。 ミザントロープとは、厭世家という意味なのです。 今ならただの「引きこもり」とか「ウツ」とか言われちゃいそうだけど、それとはちょっと違うのね。 自ら積極的に自由を求めて、社会から飛び出しちゃうことだから、どちらかといえばオプティミストの世捨て人なのですよ。 しかしワタシの場合は、イラスト稼業を辞めたら、子供もいるし、すぐ路頭に迷っちゃうから、しかたなく半分だけ東京へ出稼ぎに行くことになる。という情けない Le Misanthorope になっちゃったワケよ。
今でも島のアトリエの、私道のつきあたり、ガレージの壁にPRIVATE PROPERTY「私有地につき侵入おことわりだぞ!」と英字看板がつけてある。これもアトリエができてすぐだったから、ミザントロープなぞと厭世家カブレをしていた頃だったのが、自分ではよくわかる。バカだね。こんな自然しかない場所へ、誰も侵入なんかしないし、英語を読める人もあんまりいなさそうだし、これは何の役にもたたない看板だった。侵入するのはリスくらい。 コレを見るたびに昔を思い返して恥ずかしくなる。しかし「初心忘るべからず」ということもあるから、一応まだつけてあります。
我が憧れの厭世家、英国のバーナード・ショー。→[id:osamuharada:20070120]