擬人化モンダイ

osamuharada2016-09-08

動物がしゃべりまくる映画『ジャングル・ブック』。興味なかったが、孫にせがまれて観にいきました ( 3D、IMAXシアター、吹き替え版)。狼の母親に育てられた主人公の少年は、動物たちの共通言語をしゃべっている。孫(小1)に映画の途中で面白いか?と聞いたら「・・・ん。」とあいまいな返事。動物が話すことに抵抗はないようだが、語彙の少ない孫はところどころで意味不明におちいったもよう。大蛇が魔性の女であったり、子供にとっては大人の会話が多すぎるんだな。すべてCG製である写実の動物たちは、本物がほんとにしゃべっているように見えて、まさにヴァーチャルリアリティの世界だ。動物の「擬人化」はますます発展しているみたいだが、最終的には何を目指して発展したいのかが解りかねる、と祖父もまた意味不明におちいった。映画のあとで「洗脳」という言葉が頭に浮かんだ。
いま流行りのTVコマーシャルには、人間一家の主人だけが犬の姿をして、しかも家族とオヤジ的会話を平然としているのがありますね。シュールな世界で強引に人目を引こうとする、宣伝屋コピーライターが思いつきそうなコントだな。人間の擬犬化とでも云ふべきか。犬も人間もバカにされて笑いをとらされる役。ゆるキャラに似た発想。また空前の猫ブームに乗って、猫にヤンキー服を着せた「なめ猫」までが復活している。どれも本物の犬や猫を酷使するところが動物愛護精神に反するぞ、とヤツガレは気にいらん。それじゃ陰湿なイジメだろ、これが今の日本人が好きな「擬人化」なのかね?
パレットクラブの絵本教室では、動物を擬人化するもの、しないもので分類をして教えています。擬人化したものでは、リチャード・スカーリーの絵本がぼくのベストワンで、人間の服を着ているのに動物たちはみな自然体で可愛い。擬人化をしていない例では、猿が猿のままに活躍するH・A・レイの「おさるのジョージ」。 飼い犬「どろんこハリー」などがいいな。人間と仲よく共生する動物が描かれている。象が人間世界で教育され人格を身につけ、再び象の国へ帰り王様となる「ぞうのババール」。これは擬人化への過程がシリーズの最初に描かれる。一作目が最高傑作だ。どれもぼくの好きな絵本(ただし翻訳本でなくオリジナルに限る)ばかりなのですが、動物の扱い方には様々あって、それぞれ楽しめるのです。
ディズニー漫画を例にあげると、鼠のミッキーマウスは完全に擬人化されていて、服も着て人間同様の暮らしぶりをしている。ミッキーは人間のようにペットの犬も飼っていて、それがプルートですね。首輪をさせられ、いつも犬小屋に鎖でつながれて、時どきミッキーの散歩のお供などしている。擬人化されざるプルートは言葉がしゃべれず、食い物を見るとヨダレをたらすだけの、つまり鼠に飼われている駄犬なのですね。擬人化と擬人化されない動物の組み合わせ。ディズニーにはちょいと植民地主義っぽいところがあると思うな。判官贔屓でヤツガレは昔からプルートの大ファンであります。同じ犬でも、グーフィーになると大人の男として擬人化されている。平凡なサラリーマンにもなる。「グーフィーの自動車狂時代」では、運転席に座ると興奮して形相が変わり、あたりを怒鳴り散らして乱暴運転をする。それで人間(犬)性は崩壊してしまい、車もぶっ壊れちゃう、という救いようのない話。擬人化しなくたっていいんじゃないのかな。
かのスヌーピーは、人間とおしゃべりはしないけれど、心の中(吹き出し)でいつも独り言をいっている自立心の強い犬ですね。ハンナ・バーベラのTV短編漫画「早射ちマック」も好きだった。馬は人間の乗り物だけれど、ここでは馬が擬人化されてカウボーイになっている、という西部劇マンガ。馬がテンガロンハットをかぶり、二本足で立ってガンベルトをしている。走るのも早い。馬と言えば60年代のアメリカTVドラマで、馬がしゃべるコメディ「ミスター・エド」が好きだった。この馬は飼い主としか口をきかない。人前では黙っているが、人がいなくなると、飼い主を小バカにした皮肉なことばかり言う。馬の吹き替えが三遊亭小金馬で、飼い主の男役が柳沢真一。この掛け合いは見事だった。もう誰も知らない名前だろうけれどね。
考えたら、擬人化は昔からどこにでもありましたね。馬琴の里見八犬伝では犬と人間が合体しているし、漱石の我が輩猫は一人称で物語る。落語では好きな志ん生の噺に「元犬」がある。これは人間になりたかった犬が神社に願掛けをして、ついに若い男に変身。ところが犬の時に身についた習性が現われて失敗をするという愛らしいストーリー。これは志ん生でないと可笑しくはならない。狐や狸が人に化ける噺も沢山ありました。歌舞伎の義経千本桜では、狐忠信が人間から狐に戻る一幕で大いに観客を泣かせる。狐も人間も親子の情は同じなのだというテーマ。擬人化について考え出したらとまらくなったので、本日はコレ切り。