煎茶趣味

コーヒー、紅茶よりも煎茶が好きで、朝はだいたい1時間以上かけてお茶を飲むのが、もう長年の日課です。これがないと一日が始まらないし、落ち着かないのです。島のアトリエでも、東京でもこの習慣は欠かせません。この15年間くらい、いつも茶葉は、銀座松屋の地下1階にある『茶の葉』という店で買っています。3種類くらいを買いますが、店頭には出ていないけれど「小笠」という名前のお茶が特に好きで、これだけは必ず常備しています。まろやかな渋さと、かすかな甘みのある、まったく素晴らしいお茶で、いまだに飲み飽きることがありません。色も実に美しく渋いみどり色です。まず一煎目を飲んで、二煎目ではなにか甘いものをいただきます。1週間に1度は銀座『木村屋』の「桜あんぱん」と「栗あんぱん」という組み合わせが入ります。他には銀座『鹿の子』の缶入り「まめミックス」を半分だけとか、丹波の黒豆の煮たものなんかを好みます。羊羹や、普通の和菓子では、ぼくにはちょっと甘すぎです。フランス菓子のメレンゲも好きです。
そして、大事なのは茶碗のこと。必ず白い磁器に染付けの小ぶりの茶碗にしましょう(誰に向かって言ってんのか)ね。朝日のなかでは、お茶の色合いが一番美しく映える茶碗なのです。ぼくの茶碗の骨董趣味が始まったのは、お茶飲み習慣と同時でした。やはり煎茶趣味の本場京都の骨董屋でいいのが見つかります。百年くらい前のものが最高です。まず、染付けの祥瑞写しの模様の描き方と、呉須(藍色)の色合いを見ます。ぼくもデザイナーのはしくれなので、ちょっとウルサイわけなのです。それから絵付けの絵がウマイかどうかが最も肝心です。松や梅の木の描写、花鳥風月、山水の風景人物がきっちり描けているか。ヘタウマ風のはすぐに飽きてしまうのでダメです。絵は上手くなくてはね。これも絵描きのはしくれですから、大変熱心に見て決めるのです。ぼくが最も好きで愛用してるのは、「宮田亀寿」という明治初年の京都の陶工の手になる茶碗です。たかが茶碗の小さな世界に、深遠な景色を描ける凄い才能です。お茶を飲むたびに好きになって何度も見入ってしまいます。というような気に入り茶碗が30個以上、気がついたら増えていたのでした。煎茶に作法も決まりもありません、ただ朝にお茶を飲むだけの事だけなのに、なんと自由で楽しいことでしょう。ああ、日本人でいるということは!って感謝したくなるのです。