台湾の犬

osamuharada2016-02-24

台北の夜、食後に裏通りをブラついていたら、屋台の焼鳥屋のあたりを徘徊している雑種犬を見つけた。ヤツガレはどこを歩いても犬猫を見つけるとつい一言話しかけるクセがある。このコは屋台の周囲に落ちている客の食べカスをあさっていた。「ここで何してるの?」と聞いてみたのだが、突然まずいところを見つかっちゃったなという困った顔をした。すぐにプイッと屋台の向こう排水路側へいってしまい、また黙々と汚水まみれの食べカスをあさっている。人間嫌いなところがありそうだ。しかしちゃんと派手な柄の首輪をしているから飼い犬だろう。屋台のオヤジさんもオバさんも知らん顔はしているが、ああここんちのコなのかと安心もした。と思っていたら、犬は踵を返して隣りのオープンカフェの人混みを抜け、駐輪しているバイクの列をくぐりぬけ、通りの反対側へ脇目も振らずにいってしまった。向こうはビル工事中の塀があるだけで、そのさきは中山北路に出る。夜でも猛スピードで車が行き交う6車線の大通りだ。大丈夫かな?と心配になって後を追ってみた。大通りに出て左右の歩道を見渡したのだが、もうどこにも犬の姿はなかった。
そこから2ブロック先の南京西路との交差点はまだ人通りも多く混雑している。犬のことは忘れて、夜十時までやっている三越のデパ地下へいくつもりで信号を渡ろうとしたら、向こう側の歩道にさしかかる手前で、くだんの食べカス犬がすぐ横を急ぎ足で通りこした。きちんと信号を守って走行しているところは偉いなと感心した。歩道に着いたら四角い広告塔のようなものに片足あげてオシッコをかけてゆく。こちらが声をかける間もなく、雑踏のなかをスイスイと抜けて三越のほうへ左折した。同じ方角を先導してくれているのかなと一瞬思えたほどの慣れた足取り。
この繁華街のど真ん中、大通りの歩道に沿って植え込みが連なっている。犬は途中でその植え込みの中にまた小便をした。自分のテリトリーに匂い付けをしているのだろう。次はその2mほど先の植え込みにて、優々と大便のほうにとりかかった。顔を車道側に向けて唯我独尊、とても気持ち良さそうだ。こちらも嬉しくなって眺めていたのだが、排便がすんだ途端、ひとの前を横切ってすぐ手前の店舗の中に走って入ってしまった。エーッ、こんどはこんな清潔で明るい化粧品店に用があるのかよと意表をつかれた。屋台との落差が大きすぎる。中を覗いてみると、犬は店員さんに話しかけられて尻尾を振っている。そのうち出てきた店のオジさんに飛びついたので、このコの飼い主だとひと目で分かった。まだ外から様子を見ていたら、オジさんがそばにやってきて犬を奥から呼び寄せてくれた。こちらが犬好きだと気がついてくれたらしい。急に忠犬らしくなってオジさんが中国語で命じたら、店先でお座りしたままジッとしてくれた。さっきまで焼鳥の汚い食べカスを喰ってたことなど無かったようにすましている。オジさんは知るや知らずや、実はB級グルメ犬であることは内緒にしておこう。写真は取らせてくれるが、他人には知らん顔。よくみると困ったような顔は生まれつきなのだった。Hanna-Barbera の漫画に出てくる、気の弱いハイエナ「ハーディー・ハーハー」を思い出した。オジさんにこのコの名前を聞き忘れたのだけが心残りとなった。
そのドキュメンタリー写真→http://osamuharada.tumblr.com/ (後の4あたりを押してください)
おかげで日本の忠犬ハチ公の謎も解けた→[id:osamuharada:20150319]