台湾にて

osamuharada2016-02-22

今年も故宮博物院で、文人画家「董其昌」展を観ました。富岡鉄斎座右の銘とした《 万巻の書を読み 万里の路をゆく 》の董其昌です。二日間通い、じっくり勉強させていただきましたよ。唐から始まって五代、宋、元、明の山水画の系譜を集大成して、文人画の芸術論を確立した人。過去の名画を臨模した作品も多く、絵画史を自ら描くことによって体得した人だと分かる。そして水墨のあらゆる技法を自家薬籠中のものとした。しかし絵画は模倣のままで終えてはならず、一旦すべてを忘れ去り、自由気ままに描かなければいけないと戒める。
日本では江戸時代に董其昌は知られて、幕末の文人画に多大の影響を与えた。鉄斎もまた私淑したその一人といえる。一昨年に故宮でみた明初の「沈周」が文人画のルネッサンスだとしたら、明末の董其昌は印象派の開祖のような存在かな。のちに清初の「石濤」「八大山人」にも影響を与えている。マティスはこの石濤に傾倒して独自の線描スタイルをつくったから、文人画の系譜に入れてあげてもいいのでは。といろいろ空想するだけでも楽しい。ぼくは董其昌にアブストレを発見して、文人画の目指す桃源郷に至ることができた。やはり絵画は実物を見るにしかず、ですね。
故宮では、いつ来ても書画の展示室はガラガラでこれだけは嬉しかった。ただ途中でお茶していた三希堂が閉鎖(大衆食堂化か?)されたのが残念。ゆっくり余韻を味わうような場所はどこにもなくなった。中国人団体さんで館内は埋めつくされ、昼間はいつもラッシュアワー。押すな押すなで美術鑑賞にはいくらなんでも酷すぎる。有名な彫刻「白菜」は、すでにゆるキャラとなってミュージアムショップ(土産店)で売られていた。猫ブームはまだ中国では起っていないらしく、所蔵品で南宋の画家「李迪」の神品といわれている仔猫図(原寸の印刷物)を500円で売っているというのに誰も買わない。「董其昌」展の重厚なカタログ(上の写真)は素晴らしく、しかも安い。でも誰も買わない。
長いこと董其昌を〈とうきしょう〉と読んで馴れ親しんできたが、本国では Dong Qichang と発音する。これじゃドン・キホーテみたいで、リューベン(日本人)としてはちょいと残念な気もした。 去年の故宮[id:osamuharada:20150210] 一昨年の故宮[id:osamuharada:20140301]