東京の悪口

osamuharada2015-11-16

愛読しているユーモア作家・獅子文六に、『東京の悪口』(1959年刊) というエッセイ集があります。そのなかの一節。戦後、地方から東京へと流入する人口が急増したので、東京人としては息苦しさを感じるようになってきた。そこで文六先生は東京の人口密度を下げるにはどうしたらよかろうか、苦肉の策を考えた。
《 とにかく、東京をどうにかしなくてはならない。私の考えでは、まず 第一に、都庁が全力をあげて 厭人思想 を鼓舞することである。》と、東京都民をしてみーんな「人間嫌い」にしちゃえばいいという。コメディ・フランセーズモリエールですね。さすれば東京から人はいなくなり、もっともっと暮らしやすくなる。それには、《 ガリヴァー旅行記とか、ショウペンハウエルの哲学書とか、正宗白鳥の小説とかいうものを、都民に無料配布して、人間とはロクなものではない、その人間が集まれば、いよいよロクなことは起らないということを、広くしらしめるのである。 都知事はじめ各職員が、巷に立って 孤独のいかに愛すべきこと、山林のいかに安らかなることを、都民に訴えるのである。》 確かに人間嫌いになれば、都会に人は集中しなくなるでしょう。《そして、真に東京都を愛する都民は、自から 都を離散することに於いて、愛情の完成を見出すであろう、という所以を強調するのである。》 これで東京はカラッポになるというアイデアなのでした。
これが半世紀前の東京ですが、残念ながらいまも人は増殖しつづけ、「厭人思想」など考えも及ばないことでしょう。誰も東京から出てゆかず、どこもかしこも人だらけ。渋谷スクランブル交差点など、いまや外国人の観光名所にさえなっている有様を文六先生に見せてあげたい。卒倒するだろうな。しかしふと考えてみたら、生まれながらの東京ッコであるぼくが「自から 都を離散する」ハメになっていた。3.11以降、ヤツガレは流偶の身となっております。さすらいの渡り鳥。
この↑写真は銀座6丁目。銀座松坂屋とテプコ(東京電力)のビルを解体して、東京最大級の商業施設をつくる予定らしい。その合同ビル新築のための工事現場。昨日、前を通りがかったら、巨大な鉄骨がすでに真っ赤に錆びていたのには驚いた。東京五輪に間に合わせるための突貫工事のせいか。なんだか不気味で不安になる。廃墟をつぶして廃墟をつくる、という感じ。銀座はいまや中国人ばかりで、ここからは東京都民も離散したようだ。中国人(95%は漢民族)は、世界人口の20%を占めている。このままじゃビルが完成する前に、銀座はチャイナタウンになっちゃうよ。
現代の東京ッコには「厭人思想」より、こっち↓がオススメです。

東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命

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