森本美由紀 展

osamuharada2015-07-24

1980年代のはじめごろ、オサムグッズのデザイナーを募集していたときに、若き日の森本さんはぼくの事務所に面接にこられた。まだ岡山から東京へ出てきたばかりの学生さんだった。デザインの勉強も仕事もしたことがないという。デザイナーは無理そうだなとは思ったが、作品ポートフォリオを持ってきていたので一応見てあげることにした。デザインは一つもなく、女性を描いたスタイル画だけだったが、しかしこれが実にうまかったのです。二十歳くらいでこれだけ描けるんだったら、デザイナーなんかにならないで、もう絶対イラストレーターになったほうがいいよ、と勝手にぼくは決めつけてしまった。あとで聞いてみたら森本さんは半信半疑だったらしいが、ぼくはすっかり確信していて、しかもちゃんとそれが後に的中したのでした。ものすごい眼力でしょ。後年パレットクラブスクールで講師をしていただくようになったので、ぼくは会うとよくその自慢話をしたが、森本さんはちょっと恥ずかしそうに微笑むだけだった。
この展覧会にあわせてか、森本さんの作品集も出版されている。岡山に帰郷されてからのアトリエ紹介ページの小カット、窓辺に猫のオブジェと猫の写真が飾ってある。よく見るとその写真のほうは、築地パレットクラブのパッサージュ(自称)に住んでいた野良猫のホオズキちゃんではないか。胸をつかれる思いがした。二年前の森本さんが亡くなったころに、ホオズキちゃんも息を引きとっていた。
森本さんは、イラストレーターは職人である、ということではぼくと同じ考えの人だった。個性よりもイラストの持つ時代性や客観性を好むタイプ。森本美由紀は優れて職人技の人でもあった。生き生きとした筆使いにそれが現われている。まだイラストが躍動的で面白かった時代を、楽しみながら過ごせて幸福だったと思う。
   弥生美術館『 森本美由紀 展 』 7月3日(金)〜9月27日(日)   
   http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/