マンガに描かれた敗戦

osamuharada2014-08-15

去年ニューヨークで買ったアメリカの古い子供漫画【 NANCY 】の復刻版を眺めていたら、1945年の新聞用4コマ漫画にドキリとさせられた。いたずらっ子ナンシーの、子供っぽい視点の愉快なギャグが続くなかに突然現れる、戦時中の極めてシリアスで笑えないネタ。
【1コマ目 】学校から出てきた無表情のナンシー。大きな本を手にしている。 【2コマ目】 帰り道に、WAR PLANT(軍需工場)の前を通りかかると、巨大な爆弾を目撃する。 【3コマ目】 持っていた「地理」の本の1ページを破りとる。 【4コマ目】破られポイっと捨てられた1ページは、JAPANの地図であった。去ってゆくナンシーの後ろ姿。
その日、ナンシーが学校で教えてもらったのは、どうやら巨大爆弾の投下による日本消滅の話題らしかった。3コマ目の下、コピーライトの書き込みには、これが1945年6月12日に描かれたとある。あれ?時事ネタにしてはおかしいな。ヒロシマへの原爆投下は8月6日で、ナガサキは9日のはず。このコマ漫画の日に原子爆弾はまだ落とされていないのだ。
すると二ヶ月も前に、ナンシーの作者アーニー・ブッシュミラーさんは、この情報《一発で完全に破壊できる特殊爆弾 》の存在をすでに知っていたことになる。多分、この漫画を掲載していた新聞紙上でも情報は公開されていたのでしょうね。アメリカ陸軍長官が、原子爆弾は日本に対してできるだけ早期に使用するべきである、と6月1日の暫定委員会にて言明していたそうです。
1945年(昭和20年)の3月、すでに大空襲で東京、名古屋、大阪、神戸と次々に大都市は消滅していった。もはや敗戦は誰の目にも明らかだったはずだが、8月に原爆投下をされるまで先延ばしにされ、8月15日になって日本はようやく降参した。ナンシーが破り捨てたのは、国民に過大な犠牲をはらわせて消滅した「大日本帝国」の地図だったのでしょう。二度と見たくない地図。