信太郎うちわ

osamuharada2014-06-11

クーラー嫌いにとっては団扇が必需品の、蒸し暑い季節になりましたね。この鈴木信太郎画の団扇は、かつて高島屋デパートがお得意さんへのお中元に配ったもの。薔薇がシンボルの高島屋なので「ばら」なのでしょ。クレヨンと水彩でさらっと描いても、信太郎らしさはひと目でわかっちゃう。
〈昭和レトロ〉ってのが流行だけれど、テレビジョンに東京タワー、ちゃぶ台を囲んでご飯を食べる、味の素にコロッケやカレーにラーメン、喫茶店や安居酒屋など、どれも貧乏くさいイメージですよね。ヤツガレの「昭和」は、十代の頃に愛した鈴木信太郎の絵の中に留まっている。あの明るさに満ちた健康的な画風こそが、今は懐かしきぼくの〈昭和レトロ〉というわけね。
当時は人気洋画家として、余技の範疇でこういった仕事を頼まれていたのでしょう。信太郎グッズをあちこちで目にしました。映画のタイトル画、本の装幀に挿絵、様々な店舗のパッケージ、風呂敷や陶器などのプレミアム、つまりは現代ならイラストレーターの職種にあるものばかり。
一方で本業の油絵のほうには、どんどん高値がついて飛ぶように売れていった。バブル経済の80年代後半は、投資目的で買われたせいか、とても庶民には手が出なかった。あの頃の売れる絵画は、政治屋や官僚むけのワイロとして使われ、後で画商が換金(マネーロンダリング)をしていたのです。一種のデリバティブ金融商品として、画家の知らないところで売買されていた。発展途上国では芸術もカネの道具になる。鈴木信太郎の油絵も、いまや金銭的価値のほうは十分の一以下になってしまったが、芸術的価値観だけはすこしも失われていないと思うな。「芸術」は、本来お金などに換算すべきものではないでしょう。
まえに書いた「信太郎うちわ」はお祭りの絵でした。→[id:osamuharada:20080714] ユッタリとして、のどかな昭和時代を彷彿させる。今はこんなユトリの無い時代。やはり信太郎描く世界観が、ぼくには夢見る〈昭和レトロ〉と言えなくもないかな。