コーエン兄弟とボブ・ディラン

osamuharada2014-06-04

コーエン兄弟(監督・脚本・編集)の最新作『 インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 』を観ましたよ。1961年ニューヨーク。グリニッジ・ビレッジのあたりで大流行していた音楽シーンを描いている。一人の売れないフォークシンガーが主人公で、彼のたった一週間に起きた出来事が語られる。コーエン兄弟の「映像による文学」といった感じでキマっている。ラストシーンの渋くてかっこいいこと。この幕切れにはシビれましたね(ネタバレになるので言えないけれど)。コーエン兄弟、ますます円熟の境地に達してきたと思えてくる。二十世紀中葉いい時代のニューヨーク、そして同じユダヤボブ・ディランへの憧憬が強く感じられる映画。
この映画ポスター、ビレッジの通りで猫を抱いて歩く主人公の姿を見て、もしボブ・ディラン好きの人なら、誰だって【 The Freewheelin’ Bob Dylan 】のレコードジャケットを思い浮かべるでしょう。凍てつく通りをディランと当時の彼女スージーが寄り添って歩いてくる、あの有名な写真ですね。映像の色感も似ている。一点透視図法のような構図になっているのでインパクトがある。同じような場所と構図でジェームス・ディーンを撮った有名な写真が、そもそもの元ネタになっているんだったかな。またスージーの代わりにトラ猫とは、映画【 ハリーとトント 】を思い出させちゃうよね。猫好きも楽しめる映画ですよ。ネットで画像検索すると『フリーホイーリン』のレコジャケがヤマほど出てくるんだな。→http://www.google.co.jp/search?q=the+freewheelin'+bob+dylan&nord=1&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=NiGOU8uRF46LlAW9y4CoDg&ved=0CAgQ_AUoAQ&biw=1286&bih=631
1961年といえば、Dylanologistならずしても、ボブ・ディランが学校を dropped out して、ニューヨークで病床にあった憧れの Woody Guthrie に会いにいった年だと知っている。そしてこの映画の主人公と同じように、グリニッジ・ビレッジで歌い始めた年でもある。おんとしハタチになったばかりのディラン大兄。二枚目のアルバム1963年『フリーホイーリン』の中に、一世を風靡することになる“ Blowin’ in the wind ”が入っていたわけね。プロテストソングとして社会的にも名を馳せた名曲。
余談ですが(恥を忍んで話すけど)、このアルバムの中の“ Don’t Think Twice, It's All Right ”という曲が好きすぎたあまり、ヤツガレにもあったハタチの頃に学園祭のステージで歌ってしまったことがある。シャガレ声も煙草を吸って真似をした。首からハーモニカまでぶら下げてしまった。何をとち狂ったものか、この一曲だけをレパートリーにしたフォークシンガーだったのであります。バカでした。しかしツーフィンガーでかなでる独特のギター奏法だけは、先輩(多摩美ウェスタンクラブ)の、かの石川鷹彦さん(いまやフォークギターの神様)から直接ご指南いただいた、ソレだけがワタシの唯一の自慢なのよ。もちろん後悔なんかしちゃない、なにごとも Don’t Think Twice で It's All Right だもんね。邦題は「くよくよするなよ」。
コーエン兄弟映画で、いまも一番好きな映画【 ビッグ・リボウスキ 】。タイトルにディランの“ The Man In Me ”という曲が使われていましたね。前に書いていた。→[id:osamuharada:20060121] この映画には、こないだ亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンがいい味をだして出演していたっけ、惜しいよね。
この公式トレーラーでも、ディランの歌う” Farewell ”が聴ける。この初期の曲は未発表バージョンだったが海賊版が出てから有名になった。これを使うなんて凝ってますね。この映画にピッタリの選曲。