黒澤明『生きものの記録』

osamuharada2014-03-06

毎週金曜日の『朝日新聞・夕刊』に、イラストレーターや漫画家が、自分の好きな映画を紹介するコラム「私のグッとムービー」があります(関東版のみです)。今週3月7日(金)には、ぼくの挿絵とインタヴュー記事が掲載されます。(写真はその校正刷り)
好きな映画がありすぎて、その中から一本だけ選ぶというのはとても難しかったのですが、3.11の前でもあるし、〈核〉の放射能から逃げる男(三船敏郎)が主人公のブラックコメディー『生きものの記録』(1955年)をオススメすることにいたしました。黒澤明監督が世界にその名を馳せることになった映画『七人の侍』の、その翌年に公開されています。
この映画が作られるきっかけになったのが、「第五福竜丸事件」(1954年)で、今年はその六十年目にもあたります。しかし『生きものの記録』は、当時まったくヒットしなかった黒澤作品として、忘れ去られていたのです。ぼくもまた大昔にテレビ放送で見た時には、ピンとこなかった記憶があります。平和ボケしていたのですね。それが一昨年、WOWOW黒澤明監督特集で見直して、半世紀も前にさかのぼる、予言的な風刺劇であることが、3.11後の今だからこそ切実によくわかりました。しかもこれはブラックコメディーの大傑作だと気がついたのです。これに匹敵できる映画といったら、スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』(1964年)以外には思いあたりません。どちらも核問題がテーマの、大人の風刺喜劇です。爆笑しながらも、やがてはテーマの大きさ深さに思いいたることでしょう。未来を予言することができた偉大なる映画監督・黒澤明
NO NUKES など興味なしという、映画好きのかたにも見ていただきたい隠れた名作です。映像は、モダンでかっこよくてシビれますよ。俳優陣の演技も、日本映画の最高レベル。語り出したら止まらなくなりそうですが、DVDに(レンタルにも)なっているので、これまた一見にしかず、是非ともご覧なされてくだされまし、です。
朝日マリオン.コム「私のグッとムービー」http://www.asahi-mullion.com/column/article/movie/489 ( ←ここでも見られます。期間限定です。)