台湾の緑茶

osamuharada2014-03-04

台北へは、那覇から小一時間であっという間に着く。人口密度が、世界第7位の都市だそうだ(インドのムンバイが世界1位)。街に、人と車とスクーターがあまりに多いのには驚いた。これで夏になったらきついだろうな。暑さにも苦手なぼくには、冬の期間限定でしか来られなさそう。
故宮」以外の目的が「お茶」だったから、さっそく茶葉を探して歩く。台湾では「茶藝」というのが大流行で、どこを歩いてもすぐお茶の店に出っくわす。高級茶藝館はおおむね予約制で、所要時間が約二時間とあって、日本の茶道(抹茶を飲むほう)の「お茶会」に近く、何やら儀式めいた場所らしいのでめんどくさそう。敬遠して普通の茶の店にゆく。日本の煎茶が好きなので、自由気ままに飲むものがお茶だと心得ている。これは文人趣味というもので、日本の場合だと、千利休さん(抹茶)のほうじゃなくて、隠元禅師や売茶翁の(煎茶)精神が好きなわけです。個人的には富岡鉄斎の煎茶趣味に憧れをいだいて、鉄斎カブレとでもいうべきか。
台湾は山地が三分の二をしめて、亜熱帯の気候風土は茶づくりには一年中最適だ。「台湾でつくれない茶はない」といわれている。鉄観音、烏龍茶、紅茶、緑茶、なんでもござれ。そこで、どこの店に入っても緑茶だけを試飲させてもらうことにした。お腹はガポガポになってくるが我慢です。この店なら良さそうだなという勘がはたらくのか、たいがい探している有機栽培の緑茶を製造販売していた。しかしどこの店で試飲しても、鉄観音や烏龍茶の入れかたに似て、緑茶の茶葉は少量、うっすらと色がつくだけの、まるで出がらし茶のように感じてしまう。しかも、日本の煎茶なら二か三煎目までだけれど、こちらの緑茶は五から六煎目まではOKだそう。烏龍茶なら十煎以上までいくらしい。しかたないので買ってきて、ホテルで日本式に茶葉をたっぷりと入れて飲んでみたら、九州の古い製法「釜煎り茶」にソックリな味がする。そして有機栽培茶のほうが断然うまかった。
台湾でいう緑茶は、どうやら日本の煎茶とは歴史が違い、ほとんど〈弱発酵〉の「包種茶」に近いというのがわかってきた。これは対岸の福建省広東省東部から台湾に移住した「漢族」がもたらしたものだそうだ。もともといた台湾の原住民は茶を知らなかった。日本の京都で発達した煎茶は〈不発酵茶〉で、しかも正確には煎じて飲む「煎茶」ではなく「だし茶」になる。摘んだ茶葉を蒸したあとに手で揉んで乾燥させる製茶法で、茶葉を揉むことの技術が煎茶の味を決定することになる。ところで台湾緑茶は、中国式の「包種茶」が元だからか、少量の茶葉で、かすかな発酵の香りを楽しむ飲み方で正しかったわけだ。なにごとも現地に行って、体験してみないとわからないのは、絵画もお茶も同じことなわけですね。
写真の茶碗を買ったら、うまい有機の緑茶をいれてくれた『茗泉堂茶荘』の女主人・葉玉美さん。台湾のかたなのに日本語が通じるので話していたら、ぼくと同い年で、若い頃は渋谷の桜丘町に住んでいて、青山学院女子短大の出身だという。同時代を生きて、すぐご近所さんでいたわけね。素性がわかったら急に親しく話してくれた。こちらの人はあんまり酒を飲まず、お茶ばっかり飲んでいる。町中に居酒屋はほとんど無く、茶の店が盛んだ。そういえば街で酔っぱらいはまったく見かけない。台湾人は日本統治時代が長かったにもかかわらず、日本人が好きらしい。同じく大日本帝国が植民地支配をしていた朝鮮の人とは、対日感情が違うのは何故だろう。いずれも同じアジアの人、負の歴史を蒸し返さずに、お茶でも飲みながら仲良くはできないものなのか。