絵具と画材屋

osamuharada2013-07-24

【絵具】 ニューヨークの画材店巡りをして、ウルトラマリン・ブルーのアクリル絵具をいくつか購入した。メーカーによって同じ色でも違いがあるので、試しに数社のものを揃えてみる。いつもどこかへ行くたびに慣例になった趣味なのです。 趣味的すぎてつまらない話ですが、絵具はチューブから出したばかりの色ではまだ判らない。溶いて筆で掃き、乾燥させてから、初めてその色彩の真価は発揮される。それで、やっぱりいい絵具は〈彩度〉が高く、発色がぜんぜん違うのです。ウルトラマリン・ブルーの場合は、さらに〈透明度〉が高くなればなるほど美しくなる(そのかわり塗りにくい)。それに純白の紙なりキャンバスに塗らねば、鮮やかには発色してくれないのです。絵具にしては気位が高い感じがするな。 
アクリル絵具の元祖【 LIQUITEX 】社には、ランクのようなものがあるらしく、なかでも「PROFESSIONAL」と銘あるシリーズが最高だ。日本製(ライセンス契約)のリキテックスより彩度も透明度も高く、ラピスラズリに最も近い群青色といえるかな。アメリカの会社だが、よく見たら中身は特別フランス製でした。世界の絵画史で絵具というものを考えれば、当然かもしれませんが。
【画材店】 古い話だけれど、1979年に親友ペーター佐藤に連れていってもらった下町の画材屋【 PEARL PAINT 】へも行ってみた(上の写真)。赤白チェッカー柄の外観は当時のままで、いかにもニューヨークスタイルの気取らない店舗。まだ近くのSOHOにアーティストが多く住んでいた頃は、もっと店に活気があったような気がする。ここでは画材よりも、早世したペーターのことがあれこれ思い出されて懐かしかった。現在ここは大衆的な店で、デザインやイラスト用には十分だけれど、純粋絵画用の画材店としてはちょいと初心者向きだ。この店オリジナルの、ウルトラマリン・ブルー(MADE IN CHINA)は、ややシアンがかった暗い青でした。
有名なチェルシー・ホテルの真ん前にある画材屋【 UTRECHT 】(ユトレヒト)。何でも種類と数の多さには圧倒される。特にキャンバス類が豊富でうらやましい。欲しいものが多すぎて困った。宝の山に入りながら持って帰るには重たすぎるし、指をくわえて帰るのも情けなやと思いしが、今はネットですべて買えちゃう時代とわかってホッとした。 この店のオリジナルのアクリル絵具、ウルトラマリン・ブルーも素晴らしい発色。しかもこれは MADE IN USA の自信作だ。絵具の色数も半端じゃなく、もらった画材カタログを眺めているだけで、絵(Abstractです)を描きたくなってムズムズしてくる。これって絵描きにしか理解できない楽しみというものでしょうか。 
ニューヨーク在住の川端先生が、アトリエ近所の当時通っていた画材店 【 KATE’S ART SUPPLY 】は、もうなくなってしまってたのが寂しいな(拙著『ニューヨークの川端実』59頁に写真あり)。小さな店は、若い女主人が派手なホステスさんのようで一見画材屋らしくはなかったが、先生に対しての応対には、親しみと尊敬の念があり、ちゃんと絵がわかってる人なのだなと思った。それも、もはや23年前の話なのでした。