ソサエティ・オブ・イラストレーターズ

osamuharada2013-06-25

アップタウンを散策していたら、パークアベニューとレキシントン通りの間63丁目にある、【 SOCITY OF ILLUSTRATORS 】という古風な建物の前に出た。今まで一度も入ったことがなかったが、去年亡くなったモーリス・センダック(1928〜2012)の回顧展開催中とあるので覗いてみた。世界で二千万部も売れているという絵本『かいじゅうたちのいるところ』の人気作家。サムネイルからラフスケッチ、彩色原画など多数が一階から地下のギャラリーに展示してあり、さすがにこれは見応えがある(入場無料)。
厚手のトレーシングペーパーに緻密な鉛筆下絵を描き、水彩紙に写してから原画に仕上げる、というセンダックの几帳面さに、プロフェッショナルな職人気質がうかがわれて興味深い。淡彩で描かれた版下原画は、すべて印刷インクに適応しやすい色彩に押さえられているので、原画と印刷物に差異がほとんどないのはさすがプロの仕事ですね。ついつい絵としてよりもテクニックの面からばかり執拗に見てしまうのは、ヤツガレもイラストレーターの末席を汚す商売ガラで、いた仕方ない。
ここのギャラリーも立派なら、この創立1901年という【 ソサエティ・オブ・イラストレーターズ 】の組織も格調が高い。三階には、なんと会員専用レストランの大広間があり、隣にはこの写真のごとく中庭に面したカッコいいBAR(前日のパーテーの後らしい)まである。会合やパーティーも常時ここで行われているようだ。壁面には名誉の殿堂入りをはたした、過去のイラストレーターたちの自画像がズラリと並んでいて壮観だ。HALL OF FAME、誇りと自信に満ちた空間なのだ。むかしの小説挿絵画家からコマーシャル・イラストレーターまで幅広い。太祖ノーマン・ロックウェルをはじめ、ぼくの好きな美人画のエルブグレン(脚線美のロックウェルとうたわれた)や、最後のリアル・スタイルといえそうなボブ・ピークまでが讃えられていて嬉しくなる。しかし上手い絵の持つ快感がある時代はこの辺りまでかな。
残念ながら現代の会員イラストレーターたちの作品は、諸先輩に比較すると、どれもこれもが退屈でつまらない。絵が極端にヘタになっているのは伝来の職人気質を失ってしまったせいだろうか。かつての腕達者なアメリカン・イラストレーターの伝統は途絶えてしまった。それと気になったのは、60年代後半から70年代前半にかけて一世を風靡した〈 プッシュピン・スタジオ 〉のイラストレーターの面々が仲間はずれにされていること。当時の彼らは革新的な発展をイラスト界にもたらしたというのに、殿堂入りはしていないのだろうか? 派閥のようなものがこの狭い業界にもあるとしたら、ちょいとガッカリしちゃうな。
この全米【ソサエティ・オブ・イラストレーターズ】にはどこかの財団がバックにあるのだろうが、それにしても日本の明治三十四年、日清戦争の頃、すでに創立していたのだから畏れ入る。東京にも同じ「ソサエティ」と名のつくイラストの小団体(ぼくも名前だけは会員)が、あるにはあるのだが…。 いずれにしても、世はネット配信時代になり、出版業界が風前のともしび状態なのはいずこも同じ。景気後退で広告業界の紙媒体も衰退してゆく現在、イラストの時代は遠く過ぎ去りつつあるようだ。それでもニューヨークの一等地に、こんな立派なソサエティが残っているとは羨ましいな。