図鑑戦争

osamuharada2013-03-16

京都の蚤の市(500円)で見つけた堀内誠一さんのイラスト『 のりもの かるた 』(1964年・学習研究社)。これは「1年の学習 正月特大号」の付録なのでした。カルタの箱の裏に「おかあさん方へ」とあり「かるた遊びがおわったら、社会科乗り物図鑑として、それぞれの乗り物の用途などにつき、お子さんといっしょに話し合ってください。」と書いてあります。カルタなのに【図鑑】というところが微笑ましい。指導/東京都葛飾区立亀青小学校教諭のだれがし、とあってちょいとだけ偉そうでもある。この頃の一年生なら、現在五十六歳ですか。
堀内さんは、このとき三十代前半で、すでに明朗なイラストのスタイルが完成の域に達している。そして1964年頃の世の中は、まだ貧しくとも前向きで、現代にくらべたら、のどかな良い時代だったなァという雰囲気が絵にまで現れている。イラストという言葉はまだ通用してなく「え・堀内誠一」と表記されている。もちろん絵に印税など支払われない時代(当時は絵本画家の絵も同様の扱い)でしたが…。それにしても堀内さんのイラストには生きる喜びが溢れている。子供たちにとっても平和で幸福な時代だったのでしょう。
タイムスリップから帰って現代のお話。いまや雑誌や本が売れない〈出版不況〉が混迷を深めていて、ますますひどい情況らしい。ところがそんな出版界でも、驚異的に売れている本があるという。それがなんと小学生向けのまったく新しいタイプの【図鑑】なのです。従来からある図鑑は、せいぜい発行部数2、3万部といったところでしょうが、小学館の『くらべる図鑑』は、100万部を超える空前の大ヒット。それが嚆矢となり、小学館に続け!とばかり、学研(学習研究社講談社など大手から、小社までが、昨年から後発で【図鑑】市場に参入してきた。通称【図鑑戦争】の火ぶたが切られたッ!! のだそうですよ。
『くらべる図鑑』から始まって、次々に大ヒットを飛ばしている小学館の《子ども図鑑・プレNEO 》シリーズ。これらもすでに各巻2、30万部に達しているという。先月に出たその最新刊は『くふうの図鑑』。「楽しく遊ぶ学ぶ」とうたって、「とけいが なくとも じかんは わかる」や「だんぼうが つかえなくとも あたたまれる」「だんボールばこが だいかつやく!」「むかしの いえの どうぐの くふう」などなど、子供たちがサバイバルに生きてゆくための役立つ情報満載【図鑑】だ。この図鑑シリーズをヒットさせた編集者は、福島県宮城県の被災地を取材してこられたそうです。 《くふうの図鑑》→http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784092131873
堀内さんのカルタ図鑑の頃から半世紀。すっかり時代は様変わりしたけれど、いつの〈現代〉も、子供たちにとっては生まれて初めて体験する〈新しい時代〉なのですよ。大人にとってどんなに苦しい現代であっても、子供にだけは生きる喜びを示してあげたい。この不安定な時代を充分に意識した、力強い【子どもの図鑑】が必要とされているゆえんでしょう。