先生の絵

osamuharada2012-11-14

アトリエ別棟二階の、ささやかな玄関の壁には、川端実先生のアブストラクトが掛けてあります。ニューヨークへ行かれる前の作品で、先生はまだ四十代。「朝の太陽」とキャンバスの裏側に、珍しくも題名が自筆で書かれている。油彩で、下地に砂が定着してあり、凹凸のあるカスレが活き活きとして力強い。全体がモノクロームの画面に、わずかなグリーンが配してある。後のカラリストKAWABATAにしては、ずいぶん渋好みです。この絵のはなつ迫力は、とうていデジカメなどでは出ないので、これは個人的な思い入れが深い、好きな作品ということで、ちょっとだけヒマツブシにお見せする次第。
この絵は、ヤツガレが小学生の時から家にあり、この絵を見続けていたせいか、門前の小僧というわけで、習わぬ経ならぬ抽象画を勝手に覚えてしまったようです。中学生のころには、生意気にもコラージュや抽象表現主義、ハードエッジなどを描いては、ひとり悦に入って楽しんでいたのです。高校生になり、思い切って先生にいくつかの作品をお見せしたら、笑いながら「ベティに見せてやりてえな、日本でもこんな若いのがもう抽象をやってやがるんだからな。」と、たいそう喜んでくださった。ベティとは、ニューヨークの画商ベティ・パーソンズさんのことです。もう半世紀も前の話なのですが…。
このトシになって、この作品を静かに眺めていると、先生の絵と富岡鉄斎水墨画が、ぼくには重なって見えてくる。この絵は、漆喰の白壁と、杉の物入れ、窓の外の樹木など、日本的な素材のなかに掛けてもちゃんと馴染んでいるように思える。絵の下の盆には、鉄斎ゆかりの、四代目清水六兵衛さんの水滴が置いてあります。水滴には赤絵で竹の図が描かれている。
      書 く こ と の あ り す ぎ て さ て し ぐ れ か な  万太郎
ベティの白い壁 [id:osamuharada:20090415]   アブストラクトと床の間 [id:osamuharada:20090721]