JAZZと演歌

osamuharada2012-10-17

つらつらおもんみるに、戦後になって出現した【演歌】というものは、民謡+浪曲+POPS+JAZZなどで合成した、和洋折衷のまったく斬新な音楽だったのではないかなということ。「和魂洋才」といったって過言じゃないでしょ。しかし西洋かぶれの団塊世代あたりから、【演歌】は古くてダサイだの田舎臭いだのと忌み嫌われてきた。特に独特のコブシ唱法がお嫌いなようだ。和洋折衷でも、和製フォークや、和製ポップスのコブシ抜きのほうなら都会的でお洒落だ、ということらしい。ヤツガレはどのジャンルでもだいたいOKですよ。

演歌の八代亜紀がジャズのスタンダードナンバーを唄う、というCDが出たので、すぐに聴いてみた。もともとジャズシンガーから演歌歌手になった人だから、うまいのは当たり前だけど、冒頭の FLY ME TO THE MOON を聴いた途端、オッとこれは『舟唄』路線で、ちょいと暗いほうの八代亜紀だなと思った。なかなか軽く月へは飛んでゆけそうもない。聴きすすむと、ほとんどの曲がぼくには暗すぎて海底に沈んでしまうのだった。リズムの乗りも重苦しい。アルバムタイトルが『夜のアルバム』だから、まあコレでいいのかも知れないが。

八代亜紀といえば、ぼくは元気のいい演歌『もう一度会いたい』が最高に好きなタイプのファンなのですよ。〈 別れても 離れても 愛してる も一度会いたい 〉のほうね。 そしてまあ『舟唄』はそれほどでもないなという、つまり大変にかたよったファンです。みんなが好きな『舟唄』曲中の民謡「ダンチョネ節」にしたって、ぼくには民謡らしさがものたりない。ダンチョネだったら小林旭アニキのほうが好きだぜ、というクチなのです。

なので、この夜用アルバムは、是非とも『舟唄』派にオススメしたいジャズ。〈しみじみ飲めばしみじみと〉居酒屋好きなオヤジさんは気に入るはず。ホッピー飲んで明け方まで聴くといいよね。 ヤツガレがこのアルバムで唯一気に入った曲は、ボサノバ風の歌謡曲『ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー』でした。小西康陽さんのアレンジが軽快で気持ちいいのなんの。これなら何度でも聴きたくなる。こんどは「朝のアルバム」もつくって欲しいな。

ジャズ歌手から歌謡曲に入った先陣には、松尾和子がいる。ぼくは松尾和子のジャズのほうの大ファンだったので、つい聴きくらべてしまいましたよ。比較すると、八代亜紀のジャズは〈色気〉の点で、松尾和子にかなわないなと思ったね。そもそもジャズのハスキーボイスなるものは、江戸小唄の耳元でささやくような歌い方に似て、〈色気〉はどうしても必要不可欠だ、と思うのですがどうでしょう? 男なら美女の膝枕で聴いているような気分になりたいわけよね。八代亜紀のハスキーボイスは、小唄というより、新内浄瑠璃にピッタリ合っている。『蘭蝶』や『明烏夢泡雪』を聴いてみたい。

ヤツガレの場合、松尾和子のジャズは好きだけど、歌謡曲は嫌い。青江三奈の演歌「恍惚のブルース」は大好きだけれど、ジャズは嫌いなのですよ。同じもとジャズシンガーでも、こっちの好き嫌いは選曲によるのね。でもそこが唄物の面白いとこじゃないかな。