ジャン・エッフェル

osamuharada2011-11-17

パリの古本屋で、懐かしい『ジャン・エッフェル』の大判作品集を見つけた。戦後のフランスで人気のあった漫画家・JEAN EFFEL(1908-1982)。大ヒットした天地創造【 La Creation du monde 】のシリーズは、旧約聖書の創世記が舞台。万物の創造主である神さまが主人公のカリカチュール(風刺漫画)です。「神」の創造を、お手伝いする可愛い「天使」たち。神が創造した動物や、かたき役の「悪魔」。そして最初の人間「アダムとイブ」。これらが無から始まる天地に、初めて登場するキャラクターなのです。 一コマ漫画という、日本ではあまり見かけなくなったジャンルの風刺漫画ですね。太古の世界にありながら、神もアダム&イブも、すっかり現代人のメンタリティを持っているので、そこにユーモアと風刺が生まれます。日本でウケなかった理由は、日本人が『聖書』(世界一のベストセラー)には親しみを持たないから、というだけのことだったのでしょう。
一例をあげれば、禁断の果実を食べたために裸が恥ずかしくなり、イチジクの葉で前を隠すようになったアダムとイブ。ある時、イブが川面を鏡がわりにして、とっかえひっかえ葉っぱを試着?している一つの絵がある。アダムは後方のリンゴの木の下にしゃがんで、退屈そうに待っている。絵の下に書かれた台詞は、イブのひとりごと、「このハアザミの葉っぱじゃ、ドレスアップしすぎかな、キャベツの葉っぱのほうが似合うかしら、コレなら同伴者としてイケてるかも・・・」。イチジクの葉はかたわらに脱ぎ捨ててある。まるで都会のブティックで買い物をしているような平凡な場面。ショッピングに付きあわされて迷惑そうなアダムの表情が実におかしい。これって旧約聖書を読んでないと、ユーモアが通じないよね。禁断の果実であるリンゴをかじったために、堕落して人間となったアダムとイブ。Mac(アップル社)のシンボルマークも、コレから来てるのが欧米人なら誰でもわかってるでしょ。
ヤツガレのイラスト稼業かけだしの頃でしたが、'70年代に出版されたジャン・エッフェルの『天地創造』には、かなり影響されちゃいましたよ。絵のスタイルや線描法のみならず、その大らかで明朗な表現、活き活きとした人や動物、微妙な表情や仕草の描き分けには、およばずながらも啓蒙されました。ただ、カートゥーンとイラストの違いは、アイデアを自らつくり出す風刺漫画と、他人の書いたテキストの図解を専門にするイラスト、という差があるのです。むしろイラストには、社会風刺や揶揄は必要とされないのね、なにしろ恐いスポンサー様が裏にひかえているから。
(写真の)『ジャン・エッフェル』作品集には、社会や政治を辛辣に風刺する、ポスターやビラの作品も多く載っていて幅が広い。いまさらながらエッフェルの、時代を見る眼の確かさにビックリする。進歩主義者であり、平和主義の活動家で、ド・ゴール周恩来カストロに対峙していた。常に、弱者の側につく Humaniste だった。時事風刺の漫画家としても一本筋が通っていたのがよくわかる。どこか男らしくて、カッコいいじゃないか。