パリの群青色

osamuharada2011-09-04

どこの街にも固有の色感があると思う。パリの街ではウルトラマリン(群青色)が、ぼくには気になる色です。道路標識や公衆電話に、郵便局や銀行や店舗に、駅や地下鉄に、どこかで必ずウルトラマリンの青が効いている。本の題字やグラフィックデザインにもよく使われる。ドアや窓枠を塗るペンキにも用いられる。薬屋やクリーニング屋の看板(この写真)では、ウルトラマリンが清潔感をあらわしている。かつて、フランスの現代美術家イヴ・クラインが、有名な「インターナショナル・クラインブルー」をあみ出したのも、画材店でウルトラマリンの粉末顔料を発見したからだという。
ぼくがヒマツブシで描く抽象画では、昔からウルトラマリンの絵の具を多く使ってきた。パリの古い画材店や絵具屋でもハシゴをして、いつもウルトラマリンの絵の具を買って帰っては、アトリエで塗りくらべてみた。水彩も油絵具も、アクリルでもガッシュでも、なんでもいい。製造元によって、同じ群青色でも、紫がかっていたり、コバルトに近かったり、紺色くらいに濃いものもある。どれもがほんの少しだけ違っている。それが面白くて、見たことのない絵の具メーカーのものがあると、ついまた買ってしまう。同じ青でもコバルトやプルシアンブルーは、めったに買わない。
というくらいウルトラマリンが好きなので、パリの街を歩けばこの色が気になってしょうがない。ある街角に立って、周囲を見まわしてみると、嬉しいことに、たいがいどこかにウルトラマリンの配色がある。たまに無いなあと思っていると、ウルトラマリンの車かバスがさっと横切ってくれる。求めよ! さすれば与えられん、というわけですね。
たまたま植物園の近所が拠点だったので、自分の庭のつもりかなんかで、何度も足を運んだ。広大な花壇には、いつも満開の花々が植えられ、配色と配置が素晴らしい。プロの園芸家の、熟練した仕事ぶりというものでしょう。何種かの様々な花が、赤やピンク、オレンジでまとめられていたり、またあるところは黄色の花々で一区画だったり、白い花々でもひとまとめ、などと花壇ごとに見事なバランスなのです。ある花壇は水色や青の花を中心に、薄紫や濃紫の花などでまとめられていた。その中に完璧なウルトラマリンの花を見つけたときには、とても驚いた。
本物のラピスラズリでさえ負けてしまいそうな、ひとかたまりの群青色の花。紫外線を浴びて、遠く宇宙空間で発光しているかのように輝く。吸いこまれそうに深く、しかも前面で楽しく踊っているみたいなウルトラマリン・ブルー。思わずデジカメのシャッターを押してしまったが、色の再現はまったく不可能だと知る。電気的な発光とは全く違うからで、すべて削除してしまった。それでそこに書かれていた花の名前も消えてしまった。
やがて、その青い花も八月後半には終わってしまい、花壇には秋らしい気配のする草花や、大輪のダリアが植え替えられていた。脳裏に焼きついた、あのウルトラマリンの花の色は、いまでも忘れがたい。
イヴ・クライン→[id:osamuharada:20081031]→アーカイブスには、青いオベリスクあり。怪しいぞ。