食の安全神話

osamuharada2011-08-21

イギリスに住んでいるKさんからのメールでは、秋に一時帰国するけれど、東京の食べ物はほんとに大丈夫かしら、と不安な様子。なんでも東京のお友達に聞いたところ、「もう普段通り」「いいデパートの食品なら大丈夫よ」或いは「気にしたってしょうがない」とのこと。そうならいいのになという願望の現れなのか、もう東京では安全ムードがただよっているらしい。【原発安全神話】が、ガラガラっと音を立てて崩れ去った、と思っていたら、お次は替わって【食の安全神話】が勃興してきそうだ。
あえて福島産の食材を食べて「応援」する、という感情論にすぎないものまで登場してきた。築地場外市場には、福島県産だけの食材店ができて大繁盛をしているよし。自然食品の専門店までが、ガンバレ東日本と応援?をしているそうです。いつの間にか、天災と人災が混濁してしまっている。
自然食品店は、国が認可する農薬などの基準を拒絶して、有機や無農薬で「エコ」を売りにしてきたはずだ。それが放射能汚染になると、国が決めた暫定基準値なら安全だというのでは矛盾する。「自然食品」の看板が泣くだろう。セシウムは、核分裂でしかできない人工放射性同位体で、つまり「自然」には存在していないでしょう。
日本の食品の、セシウムの暫定基準値は【500ベクレル】までなら安全なのだとゆるくした。ドイツは、まず医者たちが反対をして原発廃止運動をおこした国だけあって、大人は【8ベクレル】、子供は【4ベクレル】までが基準だという(ドイツ放射線防護協会)。日本の子供はドイツの子供の125倍までセシウムを体内に取り入れても安全というわけだね。 これじゃいくらなんでも差がありすぎて、親なら誰だって不安になると思っていたが、予測に反してまさか半年もたたずに【食の安全神話】が生まれてるとは驚きだな。
しかし、何を食べようが結局その人の好き嫌いもあるし、安全だの、危険だのと声を荒らげて、あえて他人に言うことはないでしょう。余計なお世話と言われたりするだけ。例の「ただちに影響はない」説を信じるのも、「癌になる」説を心配するのも、個人の自由というものです。なかには「放射能物質なんぞ、いくら飲み込んだって、全部外に出るからヘッチャラなのだ」という剛の者もいるから、基準値なんて無駄でしょう。覆水盆に返らずで、すでに大量の放射能は降り注いだ。せめて産地をごまかさずに表記し、正確な放射線量の数値を明記してさえくれれば、それですむこと。あとは個人の自由な選択にまかせておけばいいよね。
パリの古い市場へ行ったら、自然食品のBIOの八百屋と、農薬使用のフツーの八百屋が軒を並べて、仲良く商売をしていた。ビオは、オーガニックと同じ意味。現代フランス人の約半数がBIOの食品を買っているそうだ。両方に買い物客がついていて、棲み分けをしている。最近は市内のどこにもBIOの食料品店があり、カフェでもBIOの素材を使用とメニューに書くところもある。BIOのワインも安く簡単に手に入る、しかもうまい。でも残念ながら「原発安全神話」国のフランスでは、食の放射能汚染に関しては、3.11以前の日本のごとく、誰も心配していないようだ。
市場の通路を、向うから猫がゆっくりと歩いてきた。堂々とフツーのほうの八百屋の棚に飛びのって、野菜の箱を検分しながら、トマトが半分売れた箱を見つけると、中でクルリと廻りながら居場所を探して座り込んでしまった。フツーの八百屋のオバサンは、知らん顔をしている。飼い猫なのかな。BIOの店だったら叱られちゃうところだろう。市場の中のレストランで友人と昼食をとって、帰りがけにさっきの猫を見にいってみたら、今度はぐっすりトマトと一緒に眠っていた。フツーの八百屋にも、BIOの八百屋にも、まだ客足はおとろえていなかった。