パリの本屋さん

osamuharada2011-08-18

あてもなく涼しいパリ市内を散策していると、どこにでもたいがい本屋があるから、飽きることがない。人のゆきかう大通りには、大衆的な大型書店があり、横丁にはさまざまな専門書店がいたる所にあります。本を探すというより、本屋そのものを冷やかしながら見て歩くのが楽しい。本のデザインや、店のたたずまいも眺めているだけで時を忘れる。つくづくパリには、あらゆる種類の本があって、本好きの人たちが多いなあと感嘆させられる。
今日たまたま見つけた小さな本屋さん(写真)は、世界の植民地や、フランス領のクレオール文化と歴史などを主に取り扱っているらしく、ウィンドウには、Exclusif と店名の前に書いてある。専門書店とあって、やや排他的なところが、かえって見てみたくなる。恐るおそる入ってみたら、店主は物静かなアラブ系のオジサンだった。仏語が読めたら、読みたい本が沢山ありそうで困った。
なんでも揃う大型書店では、サン・ミッシェル大通りの学生街にある老舗【 Gibert Joseph 】が面白い。新刊本と、その古本が並んで売られている。値段は違うけれど、同じ本なのですよ。新刊でも古本にしても他よりは安いらしい。いずれにしても、学生さんが、ふところ具合で本を選べばいいことだから良心的といえる。本の仕入れを、新刊も古本も本屋が独自に選んで買い切るからできることなのですね。
この店の特徴は、横の入口に、本の買い取り窓口があることで、読み終わった本を売りに来る人が列をなしていました。ちゃんとそこそこの値段で買い取ってくれるらしいのです。そして古本となった本は、再び店頭に並び、また誰か求める人が買ってゆく。古くから「ジベール」と学生さんたちに愛され続けてきた本屋さんだというのが納得できちゃうな。
ふと我に帰れば、日本のように、本はすべて定価で売らなければならないようでは、やがて本屋が嫌われてもしょうがないと思う。再販制度の弊害というもので、本屋は売れなきゃ返本できるから、独自性を持たなくなってしまった。それでどこも同じような、つまらんベストセラー本ばかりを積上げておくことにあいなる。日本の現状は、いま一番売れてる本屋が「ブックオフ」だというから情けないな。新刊本でも古本屋でもない、ただのリサイクルショップでしょうが。もっとも売られている本やマンガが、やっぱりソレに見合っているから、これはコレでいいのかもしれないね。
今年アメリカでは、全米第二位の大型書店【 BORDERS 】が倒産してしまった。チェーン店の、ハワイの「ボーダーズ」も、つい先ごろ閉店したらしい。去年オアフへ行って、すっかり気に入った大きな本屋さんだったのになァ。横についていたカフェも居心地が良かったのにね、ガッカリです。いよいよアメリカ経済も、クラッシュする気配が濃厚になってきたようで、これから一体どんな時代が来るのやら。
日本の出版界も、かなりヤバイ状況のようです。3.11以後、さらに悪化しているらしい。新刊バブルがはじければ、本のカバーに描くイラストレーターも職を失う。雑誌の挿絵もなくなる。ぼくは出版界の仕事を引退しているけれど、イラストの学校をやっている以上、無関係ではないので、これは若い人にとっての深刻な問題になりました。そういうこともあって、パリの良い本屋さんを眺めながら、大量生産の金儲け主義の出版ではなく、ほんとうに人々が求めている良書とは何だろうとつい考えてしまいます。本屋はどうしてもフランスに一日の長あり、と認めざるをえませんからね。
去年書いた日本の新刊バブル→[id:osamuharada:20100823]