パリの植物園で

osamuharada2011-08-02

パリ5区にある「自然史博物館」へ行ってみたら、入口に、ラウル・デュフィの絵の大作一双が掛っていました。最初から博物館の依頼で描いたものらしく、美術館などへ売り飛ばさずに、きちんと今でも飾ってあるところはサスガだな。エキゾチックで、デュフィらしく清々しい気分が横溢している。これだけでもぼくには嬉しい場所だ。中は、お子様向けではあるが、動物たちのはく製の展示や照明にセンスがあり、吹き抜けの広大な建物(19世紀末建造か?)が、古めかしくていい雰囲気を醸し出している。館内の随所に置かれた、休憩用の革張りの椅子(デザインは’60年代かな?)が、姿も座りごこちも気に入ってしまい、ちょっと欲しくなった。日本の殺風景な博物館とはぜんぜん比べ物にならない。
博物館は、広い庭のある植物園 Jardin des plantesに隣り合っている。リニューアルした植物園の温室をのぞいてみた。ここも植物の選定と配列に、緻密なデザインのセンスがあって、広くはないけれど、じっくりと楽しめる場所でした。終わりのほうの温室は、原始的な植物群の組み合わせで、学術的な展示がしてある。なかでもオヤッと思ったのは、好きなイチョウの木が、シダなどと一緒に植わっていたこと。日本では、神社仏閣のみならず、どこにでもあるおなじみの、あの銀杏の木がですよ。特に秋の黄葉が、紅葉よりも好きなほうで、晴天の空をバックに黄色に葉が色づく頃は、なんともいえず美しく感じられます。つまりぼくは銀杏ファンなので、パリの植物園でお目にかかるとは驚きなのでした。
当たり前にあるものすぎて詳しく知ろうとしなかっただけですが、生物学的には、そもそも「イチョウ」というものは、【生きた化石】と呼ばれる貴重な古い植物なのだそうですね。シーラカンスと同じくらいに奇跡的な存在らしい。なにしろ人類の祖先ホモ・サピエンス(新人)の登場するのが、たったの3万年前だというのに、イチョウは2億5千万年も前から存在していて、今もそのままのカタチで生き残っている。おなじ時空を一緒に生きていた恐竜たちは、氷河期を乗りこえられず、とっくに絶滅したが、イチョウは気の遠くなるほどの長い年月をかけて、サバイバルに生きてきたわけです。銀杏を《神木》としてあがめ、大切にしてきた古人の感覚は、やはり正しかったね。この強靭な生命力は、恐竜も人間も及ぶところではないだろう。いつか戦争や放射能で人類などは自滅しようが、イチョウだけは何とか生き残れそうだよね。