暴力歌舞伎装置

osamuharada2010-12-03

ついこないだは、官房長官自衛隊を「暴力装置」とのたまってバカ騒ぎ国会になったけれど、こんどは、歌舞伎のほうの「暴力装置」が発動してしまったね。江戸歌舞伎の根幹をなす、市川宗家の「荒事」にふさわしいヤンチャぶりだと、誉めていた演劇評論家もいたらしいが、笑止ですな。現代歌舞伎界など、どふでもよゐけれど、江戸歌舞伎の伝統が誤解されるのだけは許しがたい。江戸時代の「荒事」(あらごと)は、暴力を美化したものなんかじゃないよ。
市川家の伝統芸「荒事」という芝居は、単純な正義感を表現したものでもない。江戸時代のヒエラルキーの下、底辺の民族の、あつき信仰が舞台上に現出したものなのです。一種の宗教的儀式だったわけね。演者は、霊験あらたかなる成田山不動明王そのものになりきるか、または不動の化身である祭司となって、観衆の眼の前に顕現しなければならない。演技の頂点である「にらみ」とは、不動明王の眼力を役者が表現することなのですよ。「荒事」は、人間が神そのものになる演劇だから、エビ蔵が自称している「人間国宝」なんかじゃ、到底およばないんだよね。
GOOD NEWSは、門外不出のはずだった市川宗家「荒事」の一つ『外郎売』(ういろううり)を、京都南座片岡愛之助が代演していること。それが満員御礼の大評判だそうで良かったね。ヤツガレも愛之助ファンなのです。もう上方歌舞伎の役者でもいいんだから、これからは『外郎売』も愛之助の「当たり芸」にしちゃえばいいよね。殺伐とした暴力時代に、この朗報で、オールド歌舞伎ファンはちょっと救われましたよ。
終わっている市川家について書いたもの→[id:osamuharada:20100218]