1955年のイタリアの雑誌を眺めていたら、いい時代には、いい雑誌が存在している、という当たり前のことに気がついた。マティスが没した翌年に、大特集を組んでいる。まさにタイムリーな編集企画だ。雑誌はいつも、その時代を反映している。
さすれば現代日本の雑誌はどうだろうか? と7月に刊行されたばかりの『出版状況クロニクル〈2〉』を読んでみた。精緻なデータをもとに、今日の雑誌不況について詳しく解説がしてあり、かなりショッキングな内容だった。
今年に入って、ぼくが知っている雑誌の編集者やデザイナーだけでも五人がリストラの憂き目にあっている。まだ働き盛りのベテランの人たちだ。出版不況の中でも、雑誌が一番ひどいらしい。マンガ雑誌以外の、大衆的な雑誌は、多額な広告掲載料で経営が成り立っている。昔は1誌で一回に2億円くらいの広告料が入った。海外ブランドなどが広告主だった。出版社では「マガジンハウス」などがその典型で、これは民放のテレビやラジオ、それらの親会社である新聞などとまったく同じですね。【広告媒体としての雑誌】というわけ。しかしこの不況下では、広告そのものが激減してしまったのだから、どうすることもできない。
唯一元気のいいのが、100万部を超えるというギャルの雑誌だが、しかしこれは付録欲しさで買われているにすぎない。モノ信仰だね。雑誌のほうが逆にオマケという感じだ。紐でゆわかれた雑誌が本屋さんに並ぶ姿は、なんだか痛々しい。
そして追い討ちをかけるように、電子メディアが台頭してきた。WEBでの情報なら無料で得られる時代に、わざわざ金を払って雑誌を買う人は減ってゆく。とうとう雑誌の返本率は平均40%を超えてしまったそうだ。半分近くが売れ残る。書店から取次(問屋)を経て出版社へ返本された雑誌は、断裁処分されるのだから、紙がもったいないよ。この古くからある【再販委託制】を、もうやめないと出版界は内部崩壊するだろうな。
さらにクロニクルを読んで気がついたこと。出版が投資フアンドに化けている。出版社、取次、大型書店をひとまとめにするM&A(乗っ取り)が始まって、どうやら金融のグローバルジャングルへと、出版界もまた足を踏み込んでしまったようだ。ここまで来ているのか、やれやれ。内部崩壊が先か、外部の金融崩壊が先か、雑誌は不穏な時代をむかえている。
- 作者: 小田光雄
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2010/07/01
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