灰皿の絵

osamuharada2010-06-09

むかし知人からお土産にもらったローマの灰皿。描かれている絵を見ていたら、堀内誠一さんの絵を思い出した。堀内さんがアエログラム(航空書簡)に描かれた絵のタッチによく似ている、と勝手に思ってしまった。旅先のカフェかどこかで、ちょっと一服しながら手紙にサッと描いていた、あの軽妙な絵のタッチ。
この陶器の灰皿の絵は、至極 簡単なスケッチだけれど、その場に立って見て、情景を知っていないと、こうは描けないだろう。 堀内さんに比べたら、灰皿のほうはずっとヘタで、素人っぽい絵なのですが、ヘンに臨場感があるところが、どこか似ている。建物に当たる日差しや、陰になって奥まで続いている横道、その向こうの遠くの木々。青一色のせいか、透明な空気が感じられる。見ていると絵の中にどんどん入って、歩いてゆけそうな絵。そこのところが、やっぱり堀内さんの絵に似ているな。
数えてみたら、堀内さんは23年前に、五十六歳で亡くなっている。最後にお目にかかったのは、歌舞伎座裏の小料理屋だった。’70年にアンアン編集部で初めてお会いした時の第一印象と、少しも変わっていなかった。もの静かで穏やかで、最初からどこか老成した大人の感じがあった。もし長生きしておられたら、と云ってもせんないが、きっと今でもずっと同じ印象のままの老人になられていただろう。描く絵だって、同じように生き生きとして、瑞々しいことだろう。パイプをふかしながら、気がついたらこの灰皿で、ゆくりなく勝手な空想をしていましたよ。