クリスチャン・ベラール

osamuharada2010-02-14

芸新2月号の「小村雪岱」特集で、ぼくは雪岱の舞台美術についての雑文を書いています。戦前の名優といわれた六代目尾上菊五郎とのコンビで、後世に残る舞台装置や衣装の数々を手がけた雪岱。菊五郎の有名な歌舞伎舞踊『鏡獅子』も雪岱の美術でした。この所作事の映画化は、なんとあの小津安二郎が撮っているんですよ! 残念ながら自らの芸に厳密だった菊五郎は、この時の芸が気に入らなかったらしく、生前は自ら上映を禁じてしまいました。(今の役者には考えられないよね) 昔ぼくは京橋のフィルムライブラリーでこの映画を観て、名優の残した迫真の舞踊に心底シビれましたよ。コレこそ今すぐDVD化して欲しいものの一つ。
戦前、フランスの作家ジャン・コクトーが世界一周の旅の途次、当時日本で、最も高名な歌舞伎俳優をひと目観ようと、歌舞伎座を訪ねたことがあります。この時の六代目菊五郎の舞台が『鏡獅子』でした。コクトーは、すっかりこの無言劇(と書いている)に魅せられて、その感激の舞台の細部までをしっかりと記しました。(ジャン・コクトオ『僕の初旅世界一周』堀口大學 訳、昭和12年第一書房刊) 「舞台の神職菊五郎」最後のところはこんな感じ、《 怒りと疲労に酔ひ痴れて、二本の牡丹の間に、獅子は眠つてしまふ。胡蝶達が戻つて来て、彼をうるさがらせる。彼は目を覚ます。やがて彼の怒りと自失の上に幕が下りる。》 そして帰国したコクトーが、この鏡獅子にヒントを得て書いた戯曲が、『美女と野獣』だったそうですよ。
あの美しくもミスティックな映画『美女と野獣』(1946年 ジャン・コクトー監督)の、衣装から舞台セット、野獣のメイクアップに到るまで、すべてをデザインしたのが、CHRISTIAN BERARDという人でした。長々と書いちゃたのは、クリスチャン・ベラールの仕事ぶりが、考えたら小村雪岱とよく似ていたからなのです。彼はファッション・イラストレーターとしても『ヴォーグ』などに描いて名を成していたから、当時フランスを代表する美人画の画家。演劇界では、コクトーの他にも、演出家で名優ルイ・ジューヴェとのコンビによる舞台美術の数々も手がけました。(上の写真はジューヴェ『女の学校』のための、ベラールの舞台美術) 早世したことも、なんだか雪岱に似ているかなァと、ふと思い出したので、忘れないうちここにノートしました。雪岱→菊五郎コクトー→ベラールという連想。 ルイ・ジューヴェについては(id:osamuharada:20050128)

美女と野獣 [DVD] FRT-270

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