さるやの黒文字

osamuharada2010-01-11

この頃は、好きな煎茶の、茶請けの菓子に使うばっかりになってしまった爪楊枝です。むかし東京の下町では、たいていどこの家でも常備してあったのが、日本橋小網町「さるや」の爪楊枝だった。親父が晩酌の後で、必ずツーツーやってた姿が懐かしい。果物や菓子も楊枝でつっついて、仲良くみんなで食べていたっけ。うちでは楊枝とは言わず、黒文字(クロモジ)と呼んでいました。さるやの楊枝はクスノキ科の黒文字という木を削ってつくられる。食後にこれを、キュッと噛むと芳香がして、口中の衛生に良いとか言われてた。踊りや小唄のおさらい会などの撒き物にもよく使われていました。今でも気のきいた小料理屋には置いてある。昔は東京のありふれた日用品なのでした。
桐箱の中には、猿が「三番叟」(さんばそう)を踊る絵の栞が入っていて、このコがちょっと頼りない感じで、実に可愛いのです。烏帽子(えぼし)をかぶり、手には鈴を持っている。 おめでたい時に踊られる歌舞伎舞踊「三番叟」には、長唄、清元、常磐津など様々な三味線音楽があり、踊りの種類もいろいろとある。どれもが寿ぎの気分が横溢した所作事で、見ているだけで元気がでちゃう。 ぼくには、かつて市川猿之助が踊った「三番叟」が忘れられない。踊りの神様が猿之助にあらわれいでて、神が喜んでいるという気配がちゃんとしたのですよ。カリスマとはちょっと違う、本物の「神事」という感じでした。 この栞、「三番叟」の元々は能狂言の「申楽」(さるがく)から始まったので、「申楽」の猿と「さるや」を掛けての絵柄なのでしょう。江戸時代には「さるや」という楊枝屋さんが他にいくつもあったそうです。  「さるや」のHP http://www.saruya.co.jp/