グレース・ケリーの職業は?

osamuharada2009-09-24

芸術新潮十月号、ぼくのコラムではハリウッド映画の衣装デザイナーとして、つとに有名なイーディス・ヘッド女史についての話題です。コスチュームでオスカーを8個も取った人。名前を聞かれたことがなくとも、オードリー・ヘップバーンの『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』の衣装をデザインしたといえば、すぐおわかりになるでしょ。映画における衣装や美術とは何かについて、ご興味あるかたは芸新を是非読んでみてくださいね。
イーディス・ヘッドはパラマウント映画の専属で、アルフレッド・ヒッチコックの映画も数多く担当しています。コラムの原稿を書こうと思った時に、典型的なイーディス・ヘッドの衣装デザインとして『裏窓』のグレース・ケリーを例題としてとりあげることにしました。 ところで、たまたま新刊の山田宏一和田誠共著『ヒッチコックに進路を取れ』が出ていたので、参考にと読んでみたところ、『裏窓』の章で《グレース・ケリーが一流のファッションモデルであるということも、》と和田さんが語っておられる。アレっ?おかしいなァ、確かあの役はモデルじゃなかったはずなのにな、と疑問が生じたのですぐに調査開始。
ぼくが原典にしている『 Edith Head HOLLYWOOD 』1985年版をひもとくと、グレース・ケリーの役どころは、はたして the typical sophisticated society-girl magazine editor と書いてある。職業は編集者なのですね。あの和田さんが間違えるワケがないから、ちょっとここで悩みましたよ。DVDで確かめると、毎晩素晴らしいコスチュームを替えて登場するケリーは、ハーパース・バザー誌の人たちと “21” で昼食をしている、パークアベニューの最高級ホテル “ウォルドルフ=アストリア” でお茶して、パリから来たばかりの婦人からパリ先端ファッションのスパイ情報を得たのよとか言っている。決定的なのは、ケリーがファッションのコラムを書いていて、相手役の写真家ジェームズ・スチュアートを褒めたというセリフがあること。1950年代の高級な服装はオートクチュールが全盛期で、ある本によると世界中で20万人の顧客がいたそうだ(現在は200人しかいない)。 ブランドの既製服が主流になってファッションが大衆化するのはもっと後の時代。ファッションモデルといえば、メゾン専属か雑誌モデルはいたけれど、とてもこの映画のグレース・ケリーのような服装や豪華な宝飾品を日常的に身につけられるはずがない。ケリーは大金持ちの娘で、ファッション・コラムニストなのです。それがヒッチコックの意図した配役だったわけですね。
ついでながら、イーディス・ヘッドは、ぼくの贔屓ジェリー・ルイス映画の衣装もほとんど担当していますよ。前にこのブログで書いたところにYouTube動画を追加しました。映画の中の女性の衣装は、すべてイーディス・ヘッドのデザイン。(id:osamuharada:20061109)