VOUの編集後記

osamuharada2009-09-01

前回、黒田維理新刊本について書いた後で、久しぶりに同人誌『VOU』を眺めていたら、晩年の北園克衛(1902〜1978)の編集後記が興味深かったので、ちょっとご披露してみます。
【 猛烈な1973年の夏が過ぎ去ろうとしている.そしてこの谷間の街にも真水のような風が流れはじめた.机の上に,近くの店で買ってきた7cmほどの眠り草がおびえているような淡い緑の葉の上に球形のうす紅いろの花をつけている.まるで夏の妖精をみているようなうっとりとした気持ちになってしまうところなど,ぼくの頭も木田達也式にいえば小学生級に退化しはじめたのかもしれない.】
'73年といえば、秋頃から、中東戦争によるオイルショックで、世界経済が大打撃を与えられた年でした。日本では狂乱物価が始まる頃ですね。現在はリーマンショックによる世界不況下で、なんだか似たような感じ。昨今の現代美術の世界も、去年までの一時期のロンドン、ニューヨーク、上海などのバブル景気がはじけて、アート市場の値下がりがひどい。おかげで急速に、つまらないサブカル・アートの流行が消えてゆくのは嬉しいな。 北園克衛の編集後記の続きは、当時のアート事情にもふれていて、その毒舌ブリが実に愉快です。しかしコレ↓は今でも通用しちゃいそうですね。
【 この頃の「美術手帖」を見ていると,2,3年前の「現代詩手帖」を見ているような面白さがある.まあいってみればドサ廻りの猿芝居を見ているような面白さであるが,もともとセンスも才能もない連中がすることがなくて騒いでいるわけであるから,その一時期がすぎ去ってしまえば,あとにのこっているのは空缶と紙屑ばかりという観光地なみのハプニングということになる.そしてあれだけ高いレベルで騒ぎまわったダダイストでさえ「ダダは何も創造しなかった」といっていたことなどを思い出した.かれらが日本の詩や美術の歴史にかすり傷ひとつ付けることができなかったとしても,それはあまりにも当然のことである.】