決定版! 鳥の図鑑

osamuharada2008-07-17

イラストというと、現代の風俗流行に沿って移り変わりするものと思われがちですね。その時代の広告や雑誌に用いられる類いのイラスト。しかしそれらは昔の言葉で云うなら「風俗画」と呼ばれ、派手で目立つけれど一過性のもので、イラストというジャンルの一部に過ぎないのです。もっと古くからある、小説やエッセイに付加される「挿絵」もイラストの一部に過ぎず、実際はあっても無くても構わないもの。「絵本」は、まだ文字の読めない幼児のためのもので、これもイラストの一部です。 本来は何かを「図解」するというのがイラストレーションの大義である。しかも大衆性と普遍性があること。ということで考えると、イラストの最たるものが「図鑑」でしょう。これはまず正確な絵が無くては成り立たない。言葉だけでは理解不能の事柄が、一目瞭然という感じで誰にでも絵として解かりやすく描かれる。最も普遍的なイラストの本道が「図鑑」であるとぼくは思います。 これには、技術的に絵が上手いというだけではなく、図解するべき実体に対しての深い洞察力と知識が必要不可欠なのです。英知の限りを尽くして成立するイラストが図鑑です。
赤 勘兵衛(本名は藤田)は、ぼくと多摩美の同級生でした。学生時代から生物のリアルイラストレーションを描くことでプロでした。ぼくは初めから彼に瞠目したままで、あれから40年たった現在も、いよいよもって彼の仕事ぶりに畏敬の念を持っています。イラストレーターでありながら、知識はすでに生物学者の域に達し、それでもなお自然を愛する純粋な心根は、少年時代からすこしも変ることがありません。 その彼の新刊「鳥の形態図鑑」が実に素晴らしい。負傷したりして保護された野鳥を観察して描く。治療で鳥たちが元気になれば野に戻してあげる活動を通じて、その中から制作された図鑑なのです。よく図鑑にありがちな衒学的なものとは違い、ここでは鳥たちの生命感までが活写され記録されている。鳥を通じて大自然への愛惜が感じられる。絵に添えられた彼の説明文は、学術的な内容を小学生高学年からでも理解できるように簡潔に書かれている。大学教授の学術論文のような観念的で冷たい知識ではない。また世に蔓延するウンチク君の他人からの借り物知識などとも雲泥の差があり、本当の大人の知性がここにある。 この生命の輝きに満ちた「鳥の形態図鑑」刊行をお知らせいたします。
勘兵衛さんの(息子が作った)ホームページは http://www.sekikanbei.jp/

鳥の形態図鑑 (細密画シリーズ)

鳥の形態図鑑 (細密画シリーズ)