メトロポリタン美術館の寄贈者

osamuharada2007-09-17

ニューヨークに住んでいた若い頃、メトロポリタン美術館に日参して泰西名画の数々を初めて知ったのですが、その後ヨーロッパに渡り、本場でルネッサンスなどの古典名画を見るにつけ、メトロポリタンにある大画家の作品は、その画家の傑作と呼べるようなものは少なく、ほとんどは佳作程度の二流作品ばかり、というのが実感でした。ただ美術館そのものの規模のデカさ加減は凄いとしか言いようがないなと感心していました。今月の『芸術新潮』ニューヨーク特集でのメトロポリタン美術館の項はとても面白かった。美術作品ウンヌンよりも、まず美術館自体を探索するかのような視点が楽しい。まるで美術館を一つのラビリンスとして捉えていますね。
さらに特集の後半は、この美術館を誰が創ったのかという話に移って、これも面白かった。題して「惜しみなくコレクターは寄贈する」。この写真はその見開き頁で、メトロポリタン美術館の大階段の壁にはめ込まれた、11枚の大理石板のうちの一枚で、初期の創立者のリストが刻み込まれています。アメリカの最初の大財閥ヴァンダービルト、ニューヨークを支配する財閥ジェイコブ・アスター、今でもお馴染みJ・P・モルガンの名前が見えます。マルセル・ブロイヤーが設計した「ホイットニー美術館」のホイットニー家もでているけれど、そもそもこの近代美術の館主ホイットニーさんのミドルネームは、ガートルード・ヴァンダービルト・ホイットニーなんですよ。つまり閨閥というヤツね。
アメリカを建国した財閥たちの、真の姿をさらに知りたいなと思っていたら、これも先月出版されたばかりのスティーブン・ソラ著『米国エリートの黒い履歴書』には明解に書かれていて興味深かった。やはり極悪非道の連中でした。歴史の真実を知れば、現在起きている事も難なく理解できるという意味においても、よくぞここまで書いてくれたなァという一書ですよ。「ロックフェラーのお抱え運転手が払っている税金は、彼が乗せているご主人様より多い。」のは何故か?が読めば解かるのです。「国家はエリート階級が支配するものという事実は、支配される側にとっては昔から周知のことだ。それはもはや当たり前のことであり、人々は権力に憧れを抱く必要すら感じない。なぜなら権力は初めから彼らのものだから。」と結んであります。日本でなら皇室でしょ。どうりで「メトロポリタン美術館」も、支配されてる側には縁無きラビリンスなわけだ。本書は普通に読んでもア然とするほど面白い。またConspiracy Theorist には必読書のひとつとなるでしょう。

芸術新潮 2007年 09月号 [雑誌]

芸術新潮 2007年 09月号 [雑誌]

米国(アメリカ)エリートの黒い履歴書―秘密結社・海賊・奴隷売買・麻薬

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