いちじくとジェラール・フィリップ

osamuharada2007-09-02

これは映画監督になる前に写真家だったアニエス・ヴァルダが撮影した、俳優ジェラール・フィリップ。舞台女優ジュヌヴィエーヴ・パージュと何やら話しながら、手にしているのは摘みたてのいちじく。 ただぼくの好きな写真というだけです。日本ではもう忘れられたのかな、1959年に36歳で逝ったフランスを代表する二枚目俳優ジェラール・フィリップ。若い頃に『モンパルナスの灯』の画家モジリアニ役を演じるのを見て以来のファンです。共演したアヌーク・エーメも信じがたき美しさだった。画家を演じる役者は他にもいたけれど、この映画でのジェラール・フィリップだけは、ぼくには本物の芸術家に見えたのです。後でモジリアニの実像を見てひどくガッカリした記憶あり。 最も好きなジェラール・フィリップ映画が『夜ごとの美女』。ここでは若き作曲家の役。フランスの下町人情話風な傑作コメディですね。貧乏絵描きも、夢見る音楽家にしても、彼が演じると本然の芸術家らしい気品というものが漂ってくる。これぞフランスのエスプリ。画面をただ歩いて横切るというだけのシークエンスでさえ、才能溢れる本物の芸術家に見える。天性の明るさと気品を持った、こんな俳優はその後のフランス映画では一人も出てはいないな。で、この写真を見ていると、俳優というよりは憧れの理想的芸術家としてぼくの目には映るわけでした。
さらに、この季節にぼくの大好物いちじくが写っているから、これは余計に好きな写真なのです。子供の頃に住んでいた家の庭に、大きな古いイチジクの木があって、夏の終わる頃たわわに実る。誰にも信じてもらえないけれど、当時のぼくは木登りが大の得意で、毎年いちじくを自分で収穫していたのでした。籠に入れる前に、木の上で汗をかいて、一番先に食べたもぎたての、豊満ないちじくの味が忘れられない。

夜ごとの美女 [DVD]

夜ごとの美女 [DVD]

モンパルナスの灯 [DVD]

モンパルナスの灯 [DVD]