ブラッサイの撮ったデュフィ

osamuharada2007-07-31

芸術新潮八月号ぼくのコラムでは、ラウル・デュフィの展覧会について書きました。コラムの中の引用文は、ブラッサイの写真集“BRASSAI・The Artists Of My Life”からです。これは写真家ブラッサイ最晩年(1982年)に上梓された、芸術家達へのインタヴューとアトリエ等を撮影した写真集。ぼくにはこれも座右の書のひとつ。とりあげた画家は、ボナール、ブラック、ダリ、ピカソ、レジェ、マティス、ミロ、ルオー、そしてデュフィ。彫刻家はマイヨールにジャコメティなど。建築家はル・コルビュジエ。いずれもアメリカの雑誌「ハーパース・バザー」のために長年ブラッサイが取材したものを、ブラッサイ自身が思い出しながらエッセイにまとめ、写真を選んで編集された本です。芸術と芸術家への深い敬愛を感じさせる写真集。まず何といっても画家の生の姿がそれぞれ素晴らしい。それに画家本人の話す生き生きとした日常的な会話の数々も、そこには思わぬ本音が出ていたりして読んで楽しく、またいろいろ教えられるのです。時々襟を正して読み返したりもしています。
この見開きページは、晩年のデュフィが関節炎の痛みに耐えつつキャンバスに向かう姿です。本来は右利きだけれど、若い頃から絵は左手で描いています(その理由は芸新に書きました)。しかし左手はすでにリューマチで変形していますね。作画中のこの絵は真ん中の黒い部分にナイフで引っ掻いた線描の貨物船が描いてあるのですが、第二次大戦中からデュフィの重要なモティーフとなった“Le Cargo Noir”「黒い貨物船」のシリーズだとわかります。デュフィの絵の中で、ぼくは最も好きなシリーズです。純粋な抽象画として眺めることができます。写真集のほうは残念ながら絶版になってしまっていますが、アメリカの古本屋サイトで探すとまだ手に入りそうです。出版社はThe Viking Press, New York.