ミルト・ジャクソンを聴いた夜

osamuharada2007-04-12

’90年の夏、ニューヨークの先生を訪ねた時、取材が無い日の昼間は美術館とギャラリー巡りで、日が暮れるとジャズクラブへよく行きました。中でも運良く好きなミルト・ジャクソンブルーノートで聴いた夜が最高でした。日中は美術の「モダニズム」に浸っていたから、当然夜の音楽もモダンジャズ漬け。日本と違ってブルーノートの店内は演奏中でもお客さんは、よく食い飲むことしきりでかなり賑やかでした。それにも負けないミルト・ジャクソンビブラフォンの音色は、室内をしっかりと力強く包み込む気迫に満ちたものでした。どちらかと言うと無愛想で硬派な感じのミルト・ジャクソンであるのに、その奏でるジャズはまったくリラックスしていて、しかも期待どおりのモダニズムの横溢した演奏でした。目をつぶるとアブストラクトの絵が浮かんでくる。次の日には別の店で、同じヴァイブ奏者のボビー・ハッチャーソンを聴いたのですが、ミルト・ジャクソンよりずっと若いのに何だか古めかしい気がしたものです。
というようなことを思い出しながら、このところミルト・ジャクソンの愛聴盤を聴いています。Milt Jackson / Ballads & Blues。これはMJQとは別に初めてソロになった、1956年の記念的アルバムですが、ぼくはその後のものよりこれが一番好きです。今日の朝は天気が良かったので、目覚めとともにこの中のアービングバーリン作曲The Song Is Endedからスタートして、上機嫌のまま午後は先生の絵を見ていましたよ。これは長い間廃盤になっていたのが最近デジタルリマスタリングを施されて再発売されました。前よりずっと良い音になっています。寝る前に聴いたのは、1965年夏の夜の、何とMoMAの中庭でのライブ録音(音はよくない)です。あの昔のバウハウス風な庭園で、マイヨールやジャコメッティの彫刻と一緒にミルト・ジャクソンが写っていますね。65年頃はポップアートが一段落して、オプアートが出始めた辺りでしょう。この夜の聴衆であったニューヨーカー達が羨ましい。題して「近代美術館のミルト・ジャクソン」。昼はモダンアート、夜はモダンジャズ。流行好きの女性客はピエール・カルダンを着ていた頃でしょうか。

バラッズ・アンド・ブルース(紙ジャケット仕様)

バラッズ・アンド・ブルース(紙ジャケット仕様)

近代美術館のミルト・ジャクソン

近代美術館のミルト・ジャクソン