先生のアトリエ

osamuharada2007-04-09

川端実展」は、昼間の自然光で見るのが最高の美しさであると書きました。特にうす曇りの日がベストのようです。この写真はニューヨークの先生のアトリエ。窓は南に面していて、右側は広くハドソン河がゆったりと流れ、その先に遠く自由の女神を見ることができました。このアトリエで午前中から午後にかけて、自然光のみで作画されていました。その描いたままの色彩を正しく見るにも、今回の展示は最適だと自負しています。
これは拙著『ニューヨークの川端実』のなかの見開き頁です。ぼくが高い脚立の上(命ガケですよ)から撮ったのですが、眩し過ぎるほどの逆光で、照明もなく、感度の一番低いコダクロームのフィルムでしたから、まず内部は写らないだろうと思っていたのです。しかし半絞りずつ、シャッタースピードも細かく替えて、これはどうしても撮りたいのだ!という一念でライカのシャッターを押し続けました。現像の結果、フィルム1本ほとんど黒いシルエットのような中に、たった一つだけこの写真が現われたのでした。心から念じれば奇跡は起こるものなのですね。だから素人は恐いヨ。
アトリエはハドソン河に沿って、West 12 St とBank St の間にあるBethune という通りにありました。古くて巨大な、元は電話局だったビルを、ニューヨーク市が芸術家だけに限り(粋なもんですね、イシハラごときに真似できないだろ)貸している建物です。この建物の一画にはマース・カニングハムのダンススタジオも入っていました。先生のアトリエは6mほどの天井高があります。2mを超す、今回の展示作品は主にここで描かれた作品ばかりです。それぞれ鮮やかな黄色、群青、赤の、抽象絵画は、なんと齢八十五歳頃のものです。先生は2001年に九十歳で逝かれました。