ボブ・ディランの新曲

osamuharada2006-10-05

考えたらちょうど40年前は、ビートルズ来日騒動にも全共闘にもぼくは背を向けて、当時はほとんど誰も聴かないボブ・ディランにはまり、「戦争の親玉」などという曲を愛聴していた二十歳でした。あれからディランの様々に変化する新しいアルバムを聴き続けてきて40年が経ち、また今年の新曲を聴いて個人的に感じたこと。
最近はボブ・ディランの自伝が出たのでそれも読み、映画「ボブ・ディランの頭の中」というつまらない映画にも付き合い(客演のヴァル・キルマーの芝居だけが最高だったな)、マーティン・スコセッシ監督のかったるいドキュメント映画も観たのでしたが、どうもただ老いぼれたディランをそこに見い出すばかりで、ちょっとぼくにはピンボケでした。そして期待もせずに、この夏に出た新しいアルバム“Modern Times”を聴いてみると、“Beyond The Horizon”という一曲に、久々にシビレてしまったのです。
最初の聴き始めにすぐ解かったのは、このメロディーは紛う方なきスタンダードナンバー「夕日に赤い帆」です。ぼくの16歳の頃、ダンスパーティ(恥ずかしながら)で必ずラストに踊る定番の「ザ・プラターズ」が歌って大ヒットした曲だったのです(ここが個人的に思い入れあるところ)。この名曲をなんとスチールギターの調べもゆかしきハワイアンスタイルでディランは演奏しています。すぐに思い出したのがディランの嫌われNo.1のアルバム“Self Portrait”の曲「ブルームーン」でした。この歌のようにスタンダード曲もディランにかかると自家薬籠中の一曲になるところがカッコイイのですが、他人の作曲でオリジナリティに欠けるとディランマニアからは総スカンなのです。ライナーノートのヘッケルさんは、この曲に限りメロディの出典については何も書いていませんね、ワザとかな?
ただし歌詞のほうはオリジナルで「地平線の彼方」と題し、胸に迫る素晴らしいディランの詩歌です。世界の終末観がテーマらしく、年寄りのしゃがれ声(最近の声はカエル声と呼ばれているらしい)で歌うこの曲は、翳りのある哀愁に満ちた世界であるのに、昔ながらのアウトサイダー的なディランの力強い特質が、その声に現れて、やっぱり老いてなお最高にカッコイイのでした。ロマンチックなメロディと甘い音色のハワイアンでありながら、なんとも枯れて、凋落一途の現代アメリカを見据えながら、ヨハネの黙示録的な暗喩を感じさせる歌です。「地平線の彼方 空はどこまでも青く 寿命がつきるとも 私はあなたを愛して生きつづける」と最後に結んでいます。試聴できます→ http://www.bobdylan.com/#/songs/beyond-the-horizon-0
「戦争の親玉」は → http://www.bobdylan.com/#/songs/masters-of-war

追記(10月7日)ニューヨークから帰ってきたばかりの知人の話では、このアルバムは9月全米ヒットチャートで1位になっていたそうです。ラジオではディラン自身がDJをやっていて人気沸騰らしい。ちょっとニューヨークへ行きたくなりました。