銀座二十四帖

osamuharada2006-09-09

最近、NHKハイビジョンの番組『世界ふれあい街歩き』シリーズが好きでいつも見ています。世界の街角をゆっくりとハイビジョンカメラだけで歩くように撮影して、毎回違った人のナレーションがバックに流れます。特に中国の「鳳凰」という古い街の取材は素晴らしく、女優吉田日出子の愉快な語りもうまくて最高のデキでした。いい方向に進化したテレビ放送番組だと思います。この番組を大型のTV画面で観ていると、ごく自然にその場所を自分が歩いているような錯覚が生じて、画面は肉眼でも3Dに見えるようになり、バーチャルリアリティの醍醐味を味わうことができます。ぼくはこういう風に映像を楽しむことが多く、映画でもまずカメラワークや映像上の臨場感につい見入ってしまうクセがあるのです。ヴィジュアル優先ですね。
50年も前の川島雄三監督作品、映画『銀座二十四帖』がやっとDVD化されました。ぼくにとってはバーチャルな映像を旅するのにピッタリな映画なのです。監督自らがこの映画を「風俗映画というか、当時の銀座を記録するのが主で、ストーリーは従になった作品です」と語るように、オールロケで、長まわしのカメラで当時の銀座をドキュメンタリーにとらえています。銀座の街を説明するナレーションは森繁久彌の名調子。ぼくにとっては小学生の頃の風景ですね。築地の家から歩いて銀ブラをするのが好きで、いつもスケッチをしてまわりました。家族とは飲食店にデパート、芝居は歌舞伎座に演舞場、邦画も洋画もある数々の映画館へと出かけ、なんでもかんでも銀座で済ませちゃう家でした。なのでこの映画、表通りも裏通りも、埋め立てる前の河岸の風景も、どこもかしこも知ってるところばかりだったので、完全に50年前の好きだった銀座にタイムスリップすることができましたよ。DVDをゆっくりコマ送りして、スライドショウの様にしてみると、ますます画面に入り込んで、通りの先も店の奥も売っている商品までもはっきり見えてきます。看板やネオンは何故かフランス語が多く、通行する人々も垢抜けて意外にもみんなオシャレなのに驚きます。敗戦から10年しかたっていないというのに目覚しい復興ぶりだったのですね。もちろん現在は外資系ブランド店ばかりの街になって当時の風景は消滅していますが。
上の写真は『銀座二十四帖』の1シーン。ぼくが中学生になってから輸入小物などを(ナマイキにも)買いに行くようになる、大好きだった洋品店『ジュリアン・ソレル』です。フランス映画『赤と黒』で当時大人気だったジェラール・フィリップ扮する主人公の名前からとった店名です。みゆき通りのこの場所は現在シャネルの路面店になっています。またこの店は、北園克衛の短編集『黒い招待券』のなかの「タクラマカンの紅玉」の冒頭にも出てきます。「マロニエによく似た鈴懸の葉が銀座の舗道に散りしく頃であった。御幸通りと並木通りがクロスする角のところにジュリアン・ソレルという洋品店がある」http://www.kitasonokatsue.com/contents/koumoku06.html#07という出だしで始まって、やはり50年前のどことなく無国籍な銀座を舞台にしたショートストーリーになっています。このお店のウィンドウの中にどんなものが置かれてあったのかまで書かれています。というわけで、ほんとに昔の銀座は良かったなァと、またトシヨリのひとりごと。

銀座二十四帖 [DVD]

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