黒田維理 詩集

osamuharada2006-06-30

『ぼくの美術帖』では、北園克衛を書いた終わりの締めくくり部分に、黒田維理さんの文章(北園克衛論より)を引用させていただきました。ぼくの思っていたことが明快に書かれてあったので、初版の当時、ご本人の承諾を得て使わせていただきました。いま読んでも素晴らしい洞察力のある一節だと思います。そして黒田維理さんご自身の詩の感じがそのまま出ている文章だとも思います。
  
  北園克衛は 色としては 白とブルーである。
  彼はフランス語でいう明晰さ(clarte´)を愛する。
  ちょっとものたりないほど 淡白である。
  そこに 爽やかな空気が流れている。
  それが 彼の詩の内容の すべてである。


そして『ぼくの美術帖』の頁の始めのところに載せた、北園克衛の短い文章は、実は黒田維理詩集 “SOMETHING COOL” への PREFACE(序文)からの一部引用なのでした。勝手にぼくは座右の銘にしています。
 

  「美」とは本来,無価値なものである.
  風景や空の雲が無価値であるというような意味において. 


ぼくの十代の頃から愛読した詩集は、北園克衛『若いコロニイ』と、お弟子さんである黒田維理の “SOMETHING COOL”(写真左) なのでした。上の序文はさらにこう続きます。


  詩人は「美」の発明家である.
  思想のような退屈なものでさえ「薔薇の薫りのように」
  表現したいと思うのである.
  あの俗悪な「ウエイスト・ランド」を書いたイギリスの詩人でさえも,
  そこに黒田維理のナイロン的のワライがあり,砂的の抵抗がある.


とここで一区切りになって、さらに序文は続くのです。師匠から弟子への提言でもあるかのような序文です。
詩集『サムシング・クール』は黒田維理さん29才(1958年)の時にオニオン書房から上梓されました。写真右の小さな詩集『ナポリのナプキン』はさらにその前で’56年VOUクラブ発行。20代半ばに書かれたものです。それにしてもデザインはすべて北園克衛。とは羨ましいな。 “SOMETHING COOL” の、ペイパーバック・スタイルの装丁デザインは、ほぼ同じ版型の北園克衛『空気の箱』(1966年)より以前にすでにできていたのですね。そして本文の活字はすべてが美しいレイアウトによる横組みでした。
今年、新しいみすず書房版の拙著をお送りしたかったのですが、黒田維理さんは去年十二月永眠されました。ご冥福を切にお祈りいたします。