小村雪岱

osamuharada2006-04-28

みすず書房版『ぼくの美術帖』では、小村雪岱の図版も元の本とは差し替えしてあります。その34ページに載せた団扇型の絵は、全体の構図はご理解いただけても、モノクロームなのでその色使いの妙までは判らないでしょう。これはその団扇絵の一部分をクローズアップしてみたものです。実物は団扇そのままのサイズで木版刷りです。こういう時にブログって便利ですね。本にカラー図版を掲載したらもっと高額になってしまうのです。というわけでみすず書房版の絵で団扇の全体の構図(モダニズムとしか言いようのない構図)を確かめつつ、このミニマムな色の扱いを想像してみてくださいね。
これは雪岱の挿絵作品ではなくて、団扇の形のなかに描いた木版画シリーズのひとつです。江戸時代に流行した、浮世絵師が描く団扇図に倣っています。しかしながらどこかに挿絵画家としての物語性が濃厚な絵になっています。おそらくこの図は雪岱が初めて装丁の仕事をしたという泉鏡花原作の小説『日本橋』のイメージからなのでしょう。表紙の絵と同じく蝶と蔵のモチーフを使用していますね。白と黒の、蔵と蔵の間からのぞく人物像、背景の川を隔てて向こう岸にも連なる蔵。空と川と人物にのみ彩色を施してあり、他は団扇面いっぱいのモノクロームの画面になっています。ぼくは季節が変わるごとにこの団扇絵のシリーズ(他にもいい絵がいっぱい)を壁に掛けかえてはひとり楽しんでいます。