佐四郎人形

osamuharada2006-03-01

キャラクター専門家になった頃の昔、職業柄というか、可愛いさ研究の途次に見つけたのが、久保佐四郎の人形でした。戦前の帝展(今の日展)に人形部門ができて、人形師も立派な芸術家として、ちょっと格が上った頃の人形作家の一人です。ただ佐四郎は創作人形と呼ばれる現代人形ではなく、むしろ忘れられてゆきそうな日本全国の泥人形や地方色豊かな郷土人形を模して、そこに自分流のソフィスティケートを加えることを好んでいた作家だったようです。一種の古典主義ですね。佐四郎の手にかかると、郷土人形もたちまち品が良くなり、顔の表情は健康的にしかも繊細な表情を帯びてきます。
このお雛様は、江戸時代の浅草雛を佐四郎テイストで模したもので、ぼくの佐四郎コレクションの一つです。本当の浅草雛よりすこし小さくできています。ミニチュアということも可愛いらしさの要素の一つのような気がします。昭和になって流行した桐塑人形という、桐のオガ屑と生麩糊を使った作り方です。これは奈良時代仏像の作り方の一つ、乾漆の現代版です。表面仕上げの胡粉の白い顔には、極細の面相筆で描かれた目鼻口があっさりとしかし絶妙のコンポジションで配置されていて、ぼくには何度見ても飽きない表情です。他の人形達もすべてその佐四郎らしさが控えめに感じられるものばかりです。どこか都会的洗練を感じさせるところが好きです。都会といっても東京ではなく、もちろん江戸ですよ。
30年くらい前に、谷中の千代紙屋「いせ辰」さん秘蔵である佐四郎人形の仔犬を見たことがあるのですが、これは実に素晴らしかった。写真を撮らせてくれなかったのでそっとスケッチをして、仕事場に戻るとすぐに忘れないように色紙に絵の具で模写したこともありました。25cmくらいのやや大振りな白い仔犬は、額に木目込みで宝珠が描かれ、どこか神様のお使いでもあるような神秘的な雰囲気を漂わせていました。しかも片手をちょっと宙にあげた仕草の愛くるしさ可愛いらしさは、とてもぼくのヘタな絵では表現できないのでした。神々しき可愛いさ、とでもいうべきものが世にはあるもんなのですね。奥深いな。
この写真の佐四郎浅草雛は、娘に盗られないようにずっと秘蔵?にしていました。そのかわり娘には銀座「平つか」さんの小さな小さな雛人形セットを買い与えました。これも可愛いのですが秘蔵はついにガマンしました。