バレンシア陶器

osamuharada2005-12-28

スペインの東、地中海に面したバレンシア地方もまた南のアンダルシア地方と同じく、イスラムの色濃く残る陶器産業が盛んでした。この水差しはバレンシアの古い伝統的なデザインで、バレンシア市を南に下ったハティバ近郊の窯らしいのですが、若い陶工がたった一人で作陶していました。日本のような民芸運動(ヘンな言葉)は無かったので、この無名の陶工は、皿や鉢をぼくが集めだしてから5年くらい後、病に倒れ続けられなくなったそうで、途絶えたまま現在に至っています。今のスペイン陶器の大半は、型抜き大量生産で、流れ作業の絵付けによる物ばかりになってしまいました。観光みやげ的で派手な花柄ばかりです。グローバリズムでますます古い民族色は失われてゆくのでしょうね。つまらない時代ですね。
このバレンシア陶器、イスラム教時代のスペインがキリスト教徒によるレコンキスタ(再征服)の後の、二つの異なる宗教がデザイン上では合体しているところが面白いと思います。古いアラベスク模様の中にゴシック風が混じり、マリア像が入った小鉢まであります。イスラム偶像崇拝しないはずです。しかし改宗しても自らの血肉となったイスラム的美意識は頑固に変わらないでいる。スペイン語ではイスパノモリスコ(イスラム系スペイン)と呼んでいる様式で、スペインタイルも全く同じなのです。ヨーロッパ統一に逆らって、もう一度現代版イスパノモリスコやって欲しいよな。
テラコッタに淡く白掛けした地肌、緑と鉄の上絵具という単純素朴なこの風合いが好きです。この水差し、冬はみかんの枝などを無造作に投げ入れるとよく似合います。使わない時は北園克衛プラスティック・ポエム(抽象写真)の横に飾っています。大皿には、お米の産地でもあるバレンシアの魚介類を炊き込んだ名物料理パエリャがピッタリです。