エルブグレン

osamuharada2005-12-21

プロになってから、ぼくの憧れのイラストレーターの一人にアメリカ40、50年代のピンナップ・ガールの巨匠、Gil Elvgren がいます。大衆向けの風俗画、美人画といったジャンルで大流行した絵のスタイルです。なかでもエルブグレンは常にトップランクで、ノーマン・ロックウェル・オブ・チーズケーキ(脚線美の俗語)と称されたほどでした。Pin-Upガールのカレンダーから、ハイウェイの巨大なビルボード看板広告、ありとあらゆる媒体でイラストの仕事をこなしています。その美人画は前向きだったアメリカの時代を反映して、健康的なエロティシズムという感じかな。そこにぼくはハマって、私淑して、自分のイラストに影響を受けたようなわけです。
量産された美人画というのは、考えたら江戸時代の浮世絵が世界初ですね。例えば春信の絵に、洗濯物をとりこむ美人の着物の裾が風で捲くれて足があらわになるといった、「あぶな絵」という軽いお色気アリの美人画がそうです。歌麿、国貞、英泉と連綿と続いた浮世絵のジャンルです。アメリカでは1920年代頃から60年代まで、様々な名人上手が輩出しています。ぼくの親友だったイラストレーター、故ペーター佐藤は、30年代ピンナップの名人、ジョージ・ぺティの大ファンでした。ペーターのブラッシュワーク手法は、ぺティのなめらかな水彩画を学んだ結果でした。1972年頃ペーターとぼくでイラスト2人展をしましたが、タイトルは『ピンナップ』で、それぞれが思い思いの美人画を描いたことがありました。新人時代が懐かしいな。
もひとつエルブグレンの話。サンタクロースといえば誰でも知っている、あの太って赤ら顔に白髯の、赤い服と帽子のコスチュームのおじさんですが、このキャラクターともいえるサンタは、コカコーラの広告のために、エルブグレンと師匠のサンドブロムが創作したものですよ。大流行してジェネラル・エレクトリック社の広告やあらゆる物に印刷され世界的に普及したのです。実はペプシコーラの方は、昔からの伝説どおりオーソドックスにヨーロッパ型のサンタ、森の妖精の痩せたお爺さんを、国民的イラストレーターだったノーマン・ロックウェルに描かせていたのです。コカコーラVSペプシの広告合戦は、圧倒的にコカコーラのサンタでした。なので、我々がお馴染みのサンタクロースのキャラクターは50年代アメリカ産なのでした。エルブグレンの楽天的健康的スタイルは、お目出度い感がいっぱいですよね。
上のピンナップ・ガールは、風邪ひきでホウロウのバケツの湯にからしを入れて足を暖めようとしている、生活感のあふれた「あぶな絵」で、ぼくのエルブグレン中のベストワンです。原画は大きなキャンバスに油彩で描かれ、毛布の材質感と美しい肌の色の対比、軽妙な筆さばき、顔の表情の生き生きとした描写、完璧です!100年後にはアメリカの浮世絵として高く評価されることでしょう。こうして書き出すと止まらなくなるのでここでお仕舞いです。