好きな二人の画家、岸田劉生と木村荘八の、猫の絵を古本屋で手に入れました。左は劉生装丁の長与善郎という白樺派の作家の本で、精緻な木版画の表紙です。むかし岸田劉生展で宋元画風の眠る猫図を見たことがあって、あまりに感動して思わずその絵を会場でスケッチしたことがありました。これはぼくの癖でした。なので古書店から送られた図録のなかの小さな本の写真を見て、すぐに劉生の絵だと気が付きました。図録には著者名のみで装丁者の名前はありませんでした。おまけに著者のほうは有名とはいえないから、この古本は安かったのでラッキー!なのでした。本の表紙を開くと、裏の見開きにもまた別の眠り猫がいます。得意とするモティーフだったようです。猫は老成して、眠るというよりは静かに花の下で瞑想にふけっているかのようです。
猫の絵のある直筆葉書はネットの古書店でゲット、便利な時代ですよね。木村荘八が舞台装置家の知人に送ったもので、猫好きの荘八が自分の飼っている猫の最新情報を書いています。送られた人も同じ兄弟の猫を飼っている模様です。乳を与えている母猫の名は「弁慶」(メスなのに)で、仔猫は「小弁」だそうです。挿絵の木村荘八が面目躍如たる筆致で、これもまたぼくの宝物になりました。そういえば若い頃に書いた拙著『ぼくの美術帖』に、劉生と荘八の芸術を比較して、絵の猫について書いた部分があるのを思い出しました。
― 木村荘八は終世猫を愛していました。自分が生まれる前から家に玉という猫がいて、「それ以来ずっと猫同居」と書いています。晩年の画室にいる写真を見ると、積まれた本の上にも、机にも猫がいて、うれしそうな主人の顔があります。ぼくは何故か荘八と猫の組み合わせに、東京の下町に生まれ育った人の匂いを感じてなりません。 岸田劉生描く宋元画風の深遠な猫図に比べて、荘八の猫の絵のなんと飄々として俗なことよ。―