あやめ咲くとは

osamuharada2005-05-06

好きな銀座のお店の一つ「平つか」へ寄ったら、季節柄でミニチュアのあやめ(あやめは菖蒲の古称)があったので、思わず買いました。いいトシしてしかもただのオヤジなのに可愛いモノ好きで時々嫌になります。なのでいつもこれは仕事に使えるからと自己弁明してから買っています。平つかさんでは本業の江戸指物と和紙に木版の便箋封筒やご祝儀袋などのほかに、小さな人形やこういった草花の飾り物も置いてあるのです。このあやめも5cmほどの小ささです。ぼくのあやめを好きな理由は、江戸時代の後半、文化文政期に流行した端唄(短い三味線の歌曲)の「潮来節」という曲のせいなのです。
『 潮来出島の 真菰のなかに あやめ咲くとは しおらしや 』
茨城県の水郷地帯の潮来(いたこ)ですね、水辺を小船で巡ると、真菰(まこも、イネ科の大形多年草)が群生していて島のようになっているところがある、その間にひっそりと薄紫色のあやめが咲いていた、というような景色をスケッチした唄です。これを聴くとぼくは、水面に五月晴れの空が映っている、のどかな水郷の風景を思い浮かべます。さらに飛躍して印象派シスレー描く「サン・マメスのロワン運河」を連想してしまいます。水と空とその間に漂うやわらかな風を感じます。明るく澄んでいてすこし寂しい景色です。そして広大無辺の風景のなかにポツンと咲くあやめの姿。この唄のあやめは、江戸の都会人から見て、鄙(ひな、田舎のこと)には、まれなる美しき人という隠喩がこめられているのでしょう、「しおらしや」という一言がグッときます。実は、昔ぼくのイラスト稼業の途中で「可愛い」研究をしていた頃、この唄を聴いて、命題「可愛い」らしさとは何であるかの解答を得たような気がしたものです。詳細は「オサムグッズ スタイル」の222頁、230頁のところの駄文にも書いてありますが「可愛い」のテーゼの一つになったのですね(ちょっと自分の本を売り込んで恐縮)。「しおらしい」には可愛らしさのなかに控えめで可憐(かれん)な雰囲気が含まれているということです。ぼくの「可愛い」論にはいささか我田引水だったかもしれませんが。
銀座「平つか」については書く事がまだまだ尽きないので、また今度書くことにしますが、もし銀座へ行かれたら是非のぞいてみて下さいね。
http://www.ginza-hiratsuka.co.jp/