クリント・イーストウッド

osamuharada2005-03-15

ぼくの初めて見た映画はジョン・ウェインの『駅馬車』だったから、根っからの西部劇好きでした。最もアメリカ的映画である西部劇の中でも、特にイーストウッドはTV映画『ローハイド』のロディ役からのファンで、マカロニ・ウェスタン『荒野の用心棒』から’92年アカデミー賞受賞『許されざる者』までのウェスタン全部好きです。さらに『ダーティハリー』などの現代モノ(ココロは西部劇)から、シリアスな『ミスティック・リバー』のようなものまで、すべての主演、監督作品嫌いなものが一つも無い。西部劇を超えてどれもこれもが徹底的にアメリカ的なのですね。しかも古き良きアメリカ。皆にバカにされたけれど『マディソン郡の橋』ですら、あのラスト近くでイーストウッドが雨の中に消えてから後の、ジャック・N・グリーン撮影の美しいカメラワークなどは映画史上に残る名シークェンスだと思います。ちょっとつまらなくともどこか必ず心に残る素晴らしい場面がある。監督作品『バード』のように音楽と映像への感動がそのまま伝わる作品というのも凄い。ぼくはジャズではチャーリー・パーカーが好きだったので、映画の葬式の後のラストシーン、明るくなった雨上がりの通りに延々とカメラを据えて、そこに後付けのタイトルバックが重なり、バードことパーカーの演奏するアルトサックス、名曲「パーカーズ・ムード」が流れたところでは泣けに泣けて、映画館が明るくなった時には大変困りましたよ。
話し出したらキリがないのですが、日本の映画ファンが見落としたのか、評判にもならなかったイーストウッド主演のコメディ『ダーティファイター』(誰がこんなアホな邦題つけたのか)のDVD。最近これがたったの980円で売られていることに義憤を感じたので一言。これはズバリ傑作なのです。本国では大ヒットしています。アメリカ映画ってのは、こうこなくちゃというような極楽ロードムービーです。ぼくの大好きなアメリカ中西部の景色風俗もテンコモリ。音楽は当然カントリーミュージック、まずそれしか合わないでしょう。相棒役オランウータンのクライド(ボニー&クライドからでしょうね)が名演技。アカデミー賞助演男優賞にノミネートされなかったことにもぼくは義憤。イーストウッド得意の、相手のセリフを聞いて自分は寡黙でいる演技が、ここでは喜劇的に生きていて爆笑させてくれます。口より先に手が出るタイミングが上手い(しかし女は絶対殴らない)。さらに人間のほうの脇役も素晴らしくて、特筆すべきは親友のお袋役の当時85歳、ルース・ゴードン(アカデミー賞助演女優賞を『ローズマリーの赤ちゃん』ですでに獲得)の演技は、まるで長谷川町子の「いじわるばあさん」のように可愛くて笑いころげます。さらに’70年代ヘルス・エンジェルス風の悪役オッサン達“Black Widows"団が登場すると、アナタは笑いの涙にくれることでしょう。他にもこれまた話すとキリがないくらい楽しい俳優陣。この映画は全員のキャラクターがあまりに愛されたせいか続編もあるのです。馬鹿な日本題名付けた奴出て来い!『ダーティファイター燃えよ鉄拳』そんな映画じゃありません。こちらのタイトルシーンではなんとレイ・チャールズイーストウッドのデュエットでカントリーソングが流れるのです!もし人生に疲れて絶望していても、この2本を一日たて続けに観たら、バカになって肯定的人生を歩むしか他に道がなくなりますよ。

ダーティファイター [DVD]

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ダーティファイター 燃えよ鉄拳 [DVD]

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