ジョン・ベッグ

osamuharada2005-02-13

イラストレーターになる前は、十代の頃からアブストラクトの画家を志していました。ぼくにとって最も偉大な抽象絵画の師は川端実。小学一年生の時から師事して以来、影響を受けたまま、今も弟子と自負しています。日本では抽象絵画は発達しなかったので、先生は早々と渡米されてニューヨーク・スクール(派)の画家として認められました。2001年に90歳で亡くなりましたが、先生がちょうど80歳の頃、ぼくはニューヨークのアトリエへ先生の本をつくるための取材を兼ねて遊びに行きました。インタヴューというのは表向き、ぼく自身が先生から聴いておきたい事が沢山あったのです。1週間毎日、お昼過ぎから質問攻めにしたのですが、芸術談義は先生すぐに飽きてしまい、1時間もすると「おい、飲むか?」ということになってウィスキーの炭酸割り、ハイボールが出てきます。つまみは柿の種のような乾きモノばかり。「グリニッジヴィレッジのシーダー・バーってとこは、モダンアートの画家の溜まり場で、よく朝まで飲んだもんだよ」というオハコの話が出ます。なにしろマーク・ロスコやバーネット・ニューマン、或いはジャスパー・ジョーンズらと飲んだ話なので、抽象画マニアのようなぼくには刺激が強すぎます。先生は酔うと言葉がべらんめえ口調で、ますます豪放磊落。得意のハイボールはどんどん濃い目になってきます。「日本酒もいいけど、アレは臭いからこっちじゃ飲まないんだ」そうで、「労働者が飲むような安いウィスキーがいいな、ジョン・ベッグってのがウマイぞ」と言われました。Jhon BeggのBlue Cap、スコットランドグラスゴーブレンド・ウィスキーです。日本でも買えるところを見つけたので、以来ぼくも先生の真似してジョン・ベッグ・ハイボール。一人でこれを飲めば、いつでも今は懐かしい先生の声が聞こえてきます「おいハラダ、もっと飲めよ」。