遠い太鼓

『百年の誤読』という、1900年から2004年までのベストセラー本を書評する本を読んでみました。岡野宏文豊崎由美の40代のライター二人による対談形式なのですが、語り口が面白くって爆笑しつつ読みました。ぼくは早世したナンシー関のTV芸能批評の、あの毒舌ファンだったので、この二人、ポスト・ナンシーといった感じがして嬉しくなりました。ただぼくはベストセラーになった本でも’60年の『どくとるマンボウ航海記』を中学生で読んで以来、その後のベストセラーは1冊も読んだ事が無いのに気がつきました。それでも出てくる書名のほとんどを知っているということは、さすがにベストセラー本ですね。この二人によると1960年がフォッサマグナで、この年を境に読書傾向が「だらしな派」に切り替わってるそうです。バカバカしい本が売れるようになったということでしょう。ますますその傾向を深めていますよね。そんなことより二人の漫才対話がまず一番楽しめる本でした。ともかく笑える本ですが、電車の中で読むとつい吹き出す(ぼくはやりました)から要注意!
ところでぼくは本を毎日読んではいるのですが、ベストセラーばかりか、現代小説というものがそもそも嫌いで全然読みません。純文学といわれたりするものや私小説なども大の苦手なのです。恋愛小説など虫唾が走ります。以前、村上春樹のベストセラー小説『ノルウェイの森』を読もうとしたのですが、50頁くらいが限度で早くも読めなくなりました。まったく興味が起こらないのには、時代についてゆけない自分にガッカリしたものです。ところがその『ノルウェイの森』を執筆していた頃の、村上春樹が書いた紀行文集『遠い太鼓』を読んでみて、すっかりそのエッセイのほうの虜になりました。警句のうまさ、比喩の巧みさ、ユーモアと軽妙洒脱の文体、これには驚愕しました。イタリア、ギリシャでの海外生活と旅行のスケッチ的な体験談の文集です。以来ぼくの愛読書です。初版で読んでからというもの好きで、文庫のほうは旅の道連れに、昼寝の枕頭の書にとなりました。もしまだお読みになっていなければ、この中の「ティタニア映画館の夜は更けて」を立ち読みしてみることをオススメします。これもまた吹き出す(ぼくはやってます)ので、充分気をつけてくださいね。

百年の誤読

百年の誤読

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)