ぼくの好きな昔の役者は、十一代目団十郎と、去年亡くなった島田正吾、それにフランス演劇界の大看板ルイ・ジューヴェの三人。ただしジューヴェの舞台は勿論観ていません。1923年コメディ・シャンゼリゼの『クノック』を観た岩田豊雄(獅子文六)は「これは実に面白かった。私は喜劇に対する尊敬や愛情をこの時に開かれたといってもいい」と演劇開眼して後に文学座をつくったくらいです。ぼくは1950年の映画『クノック』を若い時にアテネフランセで何度も観て、ルイ・ジューヴェの面白さとかっこよさに魅入られました。ジューヴェ扮するクノックという偽医者が、健康な田舎の人々をすっかり病人であるかのように洗脳してしまい、病院経営大繁盛にするという喜劇です。社会風刺が効いた大人の芝居です。もしこれを落語でやるとしたら三遊亭円生しかいないという、ぼくの抜群なアイデアを落語通の友人に話したことがあるけど、この映画を観たという人がほとんどいないのです。『クノック』はジューヴェの当たり役で舞台では生涯に1440回演じ、映画化も2回あります。岩田豊雄は日本に帰りこれを翻案演出し上演して、クノック役を後に新派役者になる若き伊志井寛にキャスティングしたのですが、ちょっと役に合わなかっただろうなと思います。映画で次に好きなのは、なんといっても『どん底』の没落男爵の役。ジャン・ギャバンと小川の土手で話す有名なシーンで、十代の頃のぼくは人生観にまで強い影響をあたえられたのでした。で、ボヘミアン的人生になってしまったのかな。『犯罪河岸』では老刑事役、ガウンを着てスリッパを引きずって歩く後姿さえ、名演技とはコレかと思わせる。現在DVDで手に入るジューヴェ出演作品は、
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この他『旅路の果て』と『ラ・マルセイエーズ』も最近DVD化されました。