マドレーヌのいるBAR

osamuharada2013-07-09

【 Café Carlyle 】 でウディ・アレンを聴いた時、同じホテル一階に【 Bemelmans Bar 】があったのに気づき、後日一杯飲みに行ってみました。ベーメルマンスとは絵本好きの人なら誰でも知っている、あの【 MADELINE 】シリーズの作者なのです。このBARのため壁画全面と照明器具などに、請われてベーメルマンスは絵を描いています。いかにもアップタウンのBARにふさわしく、近隣のセントラルパークの春夏秋冬をテーマに選んでいる。入って突きあたりの壁には、公園を歩くマドレーヌと寄宿舎仲間たちの行列がちゃんと描かれているので、ことさらファンとしては嬉しくなってくる。この壁画ごと絵本に仕立てて欲しいなと思わせられる。ベーメルマンスはこのホテルに長期滞在して壁画を描いたというから、むかしの旅絵師のようなもんですね。それにしてもこの仕事は楽しかっただろうな。
絵本作家の名を冠したこの「 ベーメルマンス・バー 」、ひと目で気に入ってしまった。格調高いインテリアの店内は、うす暗くてよく見えないので、近寄って絵を見てもいいかなとバーテンダーのおじさんに聞くと、もちろんどうぞご自由に、といたって気さくなBARである。遠慮せずに見てまわると、絵本「マドレーヌ」の軽快なタッチそのままで、公園に集まる人々や動植物を散りばめて、どこを見ても生き生きと描かれている。普通の酒場なのに、こんなに可愛いらしいインテリアのBARというのも世界に珍しいだろう。
客層に若い女性グループが多いなと思っていたら、映画版『セックス・アンド・ザ・シティ』の舞台にもなったと聞いて納得した。すでに観光化していたんだね。ただこの若いコたち(仕事帰りのOLか)は、おしゃべりに余念がなく、せっかく専属ピアニストがコール・ポーターかなにかを演奏しているというのに、ピアノを凌ぐ大声でしゃべくりはじめたのには閉口した。ピアノ弾き語りの唄声もかき消された。 後から短パンを履いたホモカップルが来て、手をつなぎながら壁画見物だけをして、何も飲まずにすぐ出て行った。それでもバーテンダーは誰にでもごく丁寧に接客する。格調高いのか、どうだっていいのか、一体ここはどういうBARなのだ。
カクテルは「EAST SIDE」というオリジナルを頼んでみたけれど、トイレの芳香剤のような香りがして、ベースのタンカレー・ジンはやたらと強烈。しかもニューヨークのBARではどこでも同じく、巨大サイズの逆三角形のカクテルグラスだ。ただでさえ酒に弱いヤツガレ一発で酩酊いたしました。店内が混んできて、騒音とどまることを知らず、また耳が痛くなりそうなので早々退散したが、外はまだ煌々と西日がさしている。どうやら早く来すぎたようだ。時間帯によるのだろう、絵を楽しみつつ和むには、夜も更けるころに、ワインなど静かに飲むべきBARであったな…。ちょいと残念。

Mad about Madeline: The Complete Tales

Mad about Madeline: The Complete Tales

ベーメルマンスの絵本作品集。「マドレーヌ」の下絵、その他のイラスト、著者の伝記なども満載のファン必読書。