銀座通りを歩いていると、近頃ハタ迷惑なのは、「アバクロ」という洋服屋が店先に強烈な香料を振りまいていることだ。フェロモン系の匂いで惹きつけて、客寄せをしているつもりらしいが、寒い冬にはなんだかワビしい感じがするだけだ。むしろトイレの臭い消しを連想しちゃうな。
外人の男にくらべて、日本人には体臭がそれほど無いはずだから、公衆の面前でオーデコロンなど振りかけておく必要はないけれど、自分ひとりで嗅ぐためだけの【香り】ならば昔から好きなタチです。室内に香を焚くのも好きだし、オーデコロンやオーデトワレもいい。春は花の香り、夏には涼しさを感じさせてくれるラベンダーや柑橘系の香りがいいな。ところで秋から冬にかけては、単純なバニラの香りが好きなんだけれど、以前はコロンを探してもあんまり売っていなかった。永年使っているのも、パリで見つけて買ったもの。
寒い時に、バニラの香りは暖かいぬくもりを感じさせてくれる。匂いの暖房装置のようなものだなと思う。パイプ煙草は、もっぱら秋冬にフカしているため、これにもバニラ・フレーバーものが多くなってしまった。パイプもオーデコロンも、人前ではあまり用いないが、たまさか外で他人に嗅がれても、美味しそうな洋菓子の匂いとして片づけられるせいか、バニラはあまり嫌がられないようだ。たいがいコロンやパイプが匂いの発生源だとは思われず、嬉しそうにアレっ何コレこの匂い？と不思議な顔をされちゃうだけです。女性が良い香りを身につけているのはとても好きだが、男が人前でコロンをプンプン匂わせているほど醜悪なものはない、といつも思っているので、バニラの場合はうっかり嗅がれても安心な香りなのです。
